BSE関連新OIE貿易基準案についてー日本専門家会合の結果は未詳だが

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農業情報研究所(WAPIC)

05.4.9

 農水省と厚労省が8日、BSEにかかわる牛や牛肉・牛肉製品・その他の牛由来品の貿易に関する国際獣疫事務局(OIE)が提案している新基準案を検討する専門家会合を開いた。

 会合の結果や議事録は未公表だが、新聞報道によると、特定危険部位(SRM)を取り除いた骨なし牛肉について「どのような輸入条件も要求すべきでない」とした部分に関して、「特定危険部位以外でも、BSEの原因となる異常プリオンが検出されるケースもある」(読売)、「骨のあるなしで牛肉の安全性が大きく変わるとの考え方に科学的根拠はない」(日本農業新聞)などの異論が相次いだそうである。

 また、「BSEが疑われる「症状牛」、「へたり牛(歩行困難牛)」、「死亡牛」、健康牛」の4つに分類し、それぞれに点数」をつけて「国別検査目標を設定する」という提案についても、「日本の検査成績を基にいびつな得点配分を見直すよう求める意見が出されたという(日本農業新聞)。

 こうした意見を受け、両省は5月のOIE総会でこの提案に反対することを正式に決めたということである。

 新基準については、その他にも議論すべき多くの点があると思われ、専門家会合での議論も報道された点以外に及んだであろう。その結果もいずれ公表されよう。しかし、日本の立場に反映させるという消費者団体・生産者団体・関連業界団体等の意見を聴く「リスクコミュニケーション」会合も18日に迫っている。ここで、これらの論点について改めて整理しておきたい。

 OIEの基準の基本的構造は、冒頭に掲げた諸品目を、(1)輸出国・地域のBSEリスクのステータス(BSEリスクが高まるに応じて、ステータスが下がる)と無関係に取引(貿易)できる品目と、(2)このステータスに応じて輸入国が要求すべき輸入条件を定めることができる品目に分けるともに、(3)ステータスの決定方法とステータスを決定するBSEリスクの評価基準を定めるものである。そして、リスク評価の大きな要因となるBSEサーベイランス・モニタリングに関する基準や、サーベイランスの結果を左右するであろう診断検査の「マニュアル」については別に定める。

1.いかなる輸入条件も課されない品目

 中心的に議論されたらしい「骨なし牛肉」の問題は、(1)のステータスに無関係に取引できる品目を拡張、従来の乳と乳製品、一定の精液と受精卵、獣皮及び皮革、専ら獣皮及び皮革から調整されたゼラチンとコラーゲン、蛋白質を含まない獣脂(重量で0.15%の非溶解不純物の最大限レベル)とこの獣脂から作られる派生品、燐酸ダイカルジウム(蛋白質及び脂肪が検出されない)に、スタンニングまたはピッシングを受けていない牛からの脱骨骨格筋肉(機械的分離肉を除く)、スタンニングまたはピッシングを受けていない牛からの血液及び血液副産物を加えるという提案にかかわる。血液と血液副産物がどう議論されたかは未だ分からない。

2.BSEリスク・ステータスの分類と課されるべき輸入条件

 ステータスについては、提案された新基準では従来の5段階分類から3段階分類に簡素化される。すなわち、従来の1(清浄国)、2(暫定清浄国)、3(最小リスク国)、4(中リスク国)、5(高リスク国)を、1(BSEリスクが商品特定リスク軽減措置なしで無視できる国・地域)、2(BSEリスクが商品特定リスク軽減措置があれば無視できる国・地域)、3(BSEリスクが決定できない国・地域)に統合する。

 それぞれのステータスごとに要求されるべき輸入条件はあまりに複雑多岐にわたり、ここでは触れることができない。しかし、それは除いても、分類簡素化自体がどう影響するかについてもよく分からない。ただ、従来の分類では、リスクが上がる(ステータスが下がる)に応じて厳しい輸入条件が要求できたから、一定の国、特に高リスク国である英国やポルトガルのような国に対して要求された極めて厳しい輸入条件の緩和につながることは間違いない。

 新基準では、ステータス決定の重要要因の一つであったBSE発生率が無視されるために、従来はサーベイランスやモニタリングが十分でなかったために「清浄国」、「暫定清浄国」であったにすぎない国・地域が、BSEリスクが決定できない国・地域として一定の輸入条件を要求される場合が出てくる可能性がある。

 ただし、EUにとっては、これは輸入条件緩和でもあり得る。EUは既に、そのリスク評価を申請しなかったり、情報・データが不十分なためにリスクが評価できない国・地域を「高リスク」に分類、最も厳しい輸入条件を課してきた。他方、発生国・地域以外の国・地域にはいかなる輸入条件も課してこなかった日本は、このような国に対しても一定の輸入条件を課すことになるかもしれない。

3.ステータスの決定とそのためのリスク評価基準

 ステータスの決定はリスク評価の結果に基づくものとされており、従ってリスク評価のあり方が決定的に重要な意味を持つ。

 リスク評価は年々見直されるべきもので、BSE病原体が国・地域に土着の反芻動物集団に前もって存在する伝達性海綿状脳症(TSE)から、またはTSE病原体に潜在的に汚染され商品を通して、TSEが牛集団に導入された可能性を評価する「放出アセスメント」と、牛がBSE病原体に暴露された可能性を評価する「暴露アセスメント」からなる。

 しかし、新基準は、「暴露アセスメント」は、「放出アセスメント」がリスクを認めた場合にのみ実施するものとした。

 そうすると、ある国(例えば米国)の「放出アセスメント」が、国産肉骨粉や輸入肉骨粉・その他の反芻動物由来輸入製品(例えばカナダ等からの)から生じるリスクを無視できると判断すれば、「暴露アセスメント」で考慮されるべき@反芻動物肉骨粉等の牛による消費によるBSE病原体のリサイクルと増大、A死亡牛も含む反芻動物屠体・副産物・屠畜廃棄物の利用、レンダリング工程のパラメーター、動物飼料製造方法、B交差汚染の防止措置を含む反芻動物由来の肉骨粉等の反芻動物給餌の有無、CBSEサーベイランスのレベルとサーベイランスの結果、DBSEを疑われる牛を発見し・報告するための関係者の教育訓練、EBSEを疑われる牛の義務的通報・調査、Fサーベイランス・モニタリングのシステムの枠内で採取された脳その他の組織の承認された試験所での検査、F調査(検査)の数字と結果の記録の最低7年間の保存といった重要なリスク要因の分析を丸ごと免れることになる。

 リスク評価の本質的抜け穴が正当化されることにもなりかねない。その上、リスク評価が無視できないリスクを示すときに要求される「Aタイプ」のサーベイランスを免れ、従来の(不十分な)サーベイランスを維持するだけで済む「Bタイプ」のサーベイランスを行うだけでよいことになる。米国は、昨年6月に始まったそれ自体問題の多い終結間近の一時的拡大サーベイランスが(無事に)終われば、もとの貧弱なサーベイランスに戻ることを正当化される。

 その上、新たなサーベイランス基準自体にも問題がある。

4、サーベイランス

 サーベイランスの有効性は、検査のために採取されるサンプルの規模、サンプルが採取される牛集団の種類(新基準は、@BSEに合致する行動と症候を示す30ヵ月齢以上の牛、A自力で歩行困難な30ヵ月齢以上の牛と緊急屠畜に出されるか、生前検分で食用屠畜を拒否された30ヵ月齢以上の牛、B死亡牛、C通常の屠畜に付される36ヵ月齢以上の牛に分ける)だけでなく、検査対象が無作為に選ばれるのか、作為的に選ばれるかに決定的に依存する。例えば@のような最も高リスクとされる牛を見逃した上に、死亡牛を何頭検査したところで、検査対象選定に作為が働けば、結果は信頼度を著しく欠くことになる。例えばEU規則は、死亡牛について一定規模以上の・各地域を代表するサンプル採取とともに、その「ランダム」(無作為な)選定を定めている(当面、緊急屠畜牛、神経病症状を呈する牛とともに、一時的に24ヵ月齢以上のものの全頭検査を義務づけているが)。

 新基準は、Aサーベイランスの実施について、「成牛集団の年齢分布と年齢及び小集団により階層化されたBSE検査を受ける牛の数に関する良品質の(または信頼できると推定される)データを使用しなければならない」、「国は、サンプルが国または地域の牛群を代表し、また生産タイプや地理的位置、文化的に独特の養畜慣行のあり得る影響などのデモグラフィックな要因の考慮を含むことを確保するようにサーベイランス戦略を構想するべきである」などと抽象的に述べるだけである。米国がBサーベイランスでよいとなれば、それさえも免れる。

 そして、とりわけ、最も有効で効率的なサーベイランスのために、何よりも上記@の小集団に焦点を当てることを推奨している。サーベイランスの価値を差別的に評価するために、小集団@のサーベイランスに最高の、小集団Cのサーベイランスに最小の「ポイント」を与える。そして、各国が選択するこができる10万頭に1頭または100万頭に1頭のBSEを95%の信頼度で発見するためのそのポイントの合計値を定める。

 統計的にはこれで良いと言うのだが、サンプル採取が作為的なら、これは意味をなさない。米国農務省監査局は、米国の拡大検査計画は、サンプル採取が作為的であり得るから、その結果の信頼度は著しく劣ると批判したが、まさにそのとおりだ(⇒米国農務省監査局、省のBSE検査を批判 省専門家は過去のことと一蹴,07.7.15)。その上、BSEを疑われる牛を検査に差し出す農民や獣医はどこにもいない。検査の「マニュアル」自体にも疑問が提起されている。

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 無条件取引容認品目の拡大とともに、リスク評価とサーベイランスの基準の緩和は許されるべきものではない。基準を変更するとすれば、各国のリスク評価やサーベイランス(検査マニュアルの遵守も含め)の正当性を確認するための国際または第三者機関による監査の制度を導入することだ。それによって客観的で信頼できるBSEリスクのステータスを確立すること、それが安全性と貿易を両立させる唯一の道と考える。

 基本資料
 OIE現行基準:http://www.oie.int/eng/normes/mcode/en_chapitre_2.3.13.htm
 提案されている新基準:http://www.aphis.usda.gov/vs/ncie/oie/pdf_files/tahc-bse-pro-jan05.pdf(仮訳:OIE:BSEコード改正案、BSEリスク評価基準から飼料規制の有効な執行を削除、05.3.30
 提案されているサーベイランス基準:http://www.aphis.usda.gov/vs/ncie/oie/pdf_files/tahc-bse-surv-jan05.pdf