農業情報研究所


米国:ハーバードの研究、狂牛病リスクは極少、専門家は批判

農業情報研究所(WAPIC)

01.12.1

11月30日、米国の狂牛病(BSE)伝播防止措置を評価するハーバード・リスク分析センターの研究結果が発表された。この研究は、1998年4月に米国農務省(USDA)が委託したものである。それによれば、米国はBSEまたは類似の病気が入り込むことに関しては「高度の抵抗性」があり、BSEの米国への定着は「極度にありそうもない」。500頁以上にのぼる報告書の全体は、要約版を含めてhttp://www.aphis.usda.gov/oa/bse/で見ることができる。

 しかし、12月1日付けの「ニューヨーク・タイムズ」(インターネット版)は、この研究に批判的な専門家の意見を紹介している。

 この病気に関する英国の専門家であるロンドンのユニバーシティ・カレッジの神経症学者・John Cokkingeによれば、米国は牛の検査を拒絶するという大きな過ちを犯している。「ヨーロッパのすべての国は問題があったことを否定する局面を経てきている」、「昨年、強制的検査が導入されて後、断固としてこれを否定していた国々が病気があることを発見した」。

 米国は1億頭の牛のうち、1万2000頭を検査してきたにすぎない。農務長官は検査を増やすと言うが、それでも来年の検査頭数は1万2500等である。

 また、米欧の科学者たちは、研究が、何故、研究の対象である産業から研究資金を受け取っているハーバード・センターで行われたのか訝っている。やはり狂牛病の専門家であるThomas Pringleも、研究者は公式データを真に受けており、英国の禁止動物飼料の袋が詰め直され、偽表示されたあと、どれほど輸入されたか明らかでないと言っている。

 U.S. Mad Cow Risk Is Low, a Study by Harvard Finds,The New York Times,01.12.1

 なお、農務長官は、レポート発表と同時に、今後、BSE予防策を一層強化するつもりと発表した。それには次の五つの措置が含まれる(USDA News Release,01.11.30 )。

 −リスク・アセスメントの完全性を確保するために外部専門家によるその見直しを行う。

 −BSE検査の頭数を2001年の5,000から2002年には12,500に増やす。

 −潜在的に感染性のある物質に曝されるリスクを減らし、それらを食料から排除するために取られる追加的規制の概要を示す政策選択文書を発表する。これらの選択には、特定種類の動物の脳と脊髄の人間食料への使用の禁止(米国では従来禁止されてこなかった。参照米国:FDAの伝達性海綿状脳症(TSEs)諮問委員会、牛の脳製品禁止を要請)、機械的回収肉を含む骨抜き牛肉製品での中枢神経組織の使用の禁止、機械的回収肉の生産における死んだ動物を含む一定種類の牛からの脊柱の使用の禁止が含まれる。

 −屠殺の際に牛を動かなくさせるために使われる一定の失神させる装置の使用を禁止するためのルールを提案する(WAPIC注)。

 −BSE伝播の重要な潜在的経路とみられる農場や飼育場で死んだ牛の処分のための追加規制の考慮。 

 これをみると、ハーバードの報告にもかかわらず、USDAが必ずしも楽観しているわけではなさそうだと知られよう。

 WAPIC注:屠殺場での解体に際し、牛の足が突然激しく動くことがあり、作業者の危険を回避するために、解体作業に入る前に額に開けた穴からワイヤーを挿入して脊髄及び大部分の脳を破壊する慣行がある(日本ではピッシングと呼ばれる)。この際、脊髄や脳の組織が漏れ出て死体の他の部分に付着する恐れがあるために、フランスでは、20003月に禁止する省令が出されているが、問題は作業者の安全確保にかかわるから、なお完全な実施には至っていないようである。わが国でもこの方法の中止が模索されている。

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