農業情報研究所


カナダ:初のvCJD(人の狂牛病)確認

農業情報研究所(WAPIC)

02.8.10

 カナダで初の変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)患者発生が確認された(Saskatchewan Health News ReleaseRARE DISEASE NOT A PUBLIC THREAT,02.8.8Health Canad(Information):First Canadian Case of Variant Creutzfeldt-Jakob Disease (Variant CJD),02.8.8)。サスカチェワン州の患者(氏名は伏せられており、年齢も50歳未満としかわからない)は既に死亡している。死後、カナダの専門家によりvCJDと確認され、さらにイギリスの専門家により最終的に診断が確定された。vCJDは狂牛病(BSE)が人間に伝達された海綿状脳症の一種とされており、狂牛病の脅威が北米で改めて実感されることになった。

 しかし、サスカチェワン州の医療保険担当チーフは、1980年代、90年代にイギリスに滞在したときに病気にかかった可能性が高く、このケースについてこれまでに分かった限りでは、カナダの家畜や食料に関係していると考える理由はないと言う。調査によれば、
 ・患者はBSE発生期にイギリスに何度も滞在しており、
 ・イギリス滞在中に、患者は加工肉製品を食べており、
 ・90年代初めにカナダに来て以後、患者が食べた牛肉はごく小量で、鹿・ヘラ鹿(海綿状脳症の一種である慢性ウエイスティング病に感染している恐れがある)の肉も食べておらず、
 ・カナダで医療処置を受けた、
ということになっている。従って、今回のケースは、カナダの一般国民や食料に何の脅威を生むものではないという。米国とカナダの牛肉生産者団体も、早速、北米の食料は狂牛病汚染から完全に守られている、今回のケースはカナダの牛肉とは何の関係もないと保証した(Cattle breeders scramble to reassure public,The Globe and Mail,8.9)。

 しかし、北米における狂牛病対応が万全かどうかについては、多くの議論が存在する(米国:ハーバードの研究、狂牛病リスクは極少、専門家は批判米国:会計検査院(GAO)がBSE対策強化を要請するレポート、農務省は猛反発等を参照)。最初はコロラドでのみ発見された慢性ウエイスティング病も急速に拡散している。いまやカンサス、モンタナ、ネブラスカ、ニュー・メキシコ、オクラホマ、サウス・ダコタ、ウィスコンシン、ワイオミング、さらにはカナダのサスカチェワン、アルバータの野生・家畜の鹿・ヘラ鹿への広がりが確認されている。8月6日には、米国とカナダの専門家が、拡散のメカニズムもまったく分からないこの病気を封じ込めようと二日間のシンポジウムを開いたばかりである(Experts Consider How to Stop a Variant of Mad Cow Disease,The New York Times,8.7)。折りしも、アルバータ州は、1996年以来行なっている家畜としての鹿・ヘラ鹿の自主検査計画(20%の生産者が不参加)を義務化する決定を行なった(Alberta calls for elk, deer to be tested,The Globe and Mail,8.9)。当局や生産者団体の言うように、対応は万全であったであろうか。今回のケースを機に、議論は一層高まるのではなかろうか。

 とはいえ、vCJD感染の経路は食物に限られるわけではない。実例は確認されていないし、科学的に明白な証拠もないけれども、血液を通して人から人に伝達する「理論的可能性」が指摘されている。保健当局は、患者の死因がvCJDと確認されたのち、この患者の処置に使われたのと同じ内視鏡で処置を受けた71人に電話で知らせ、これらの人々の供血を禁じた。連邦保健省の担当者は、これらの人々のリスクは微小であり、措置はあくまでも「予防的」なものだと言う。しかし、いきなり、あなたには狂牛病の恐れがあると知らされた人々の恐怖と怒りは収まるものではない(Waiting begins for former patients,The Globe and Mail,8.9Mad-cow strain hits Canada,The Globe and Mail,8.9)。使用された内視鏡は消毒されていたというが、ヘッドが溶けてしまうから、病源体を完全に不活性化させることは不可能であったはずである。もし内視鏡が異常プリオンに汚染されていたとすれば、消毒が有効であったとは言えないであろう。最近、血液を通しての感染のリスクは、従来考えられていた以上に高いのではないかという研究も発表されたばかりである(輸血によるvCJD感染リスク、予想以上に高いという研究)。71人にとっては、当局の説明は気休めにもならないであろう。これらの人々にとっては何の救いにもならないが、この面からの対策も、一層の強化を迫られよう。

 なお、今回のケースにより、世界におけるvCJD患者は、イギリス125人(8月5日現在)、フランス6人、イタリア、アイルランド、香港、カナダ各一人の135人となった。ほかに、今年、米国・フロリダの1人が疑い濃厚と診断されている。

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