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イギリス:食品基準庁、30ヵ月以上ルール廃止を提案へ

農業情報研究所(WAPIC)

03.7.7

 イギリス食品基準庁(FSA)が7月10日の会合で、30ヵ月以上の牛を人間の食用から排除する1996年以来のルール(OTM)を廃止、BSE検査に置き換えることを提案すると発表した。OTMは、海綿状脳症委員会(SEAC)が1996年3月、30ヵ月以上の牛の肉からは食肉衛生局の監視下の認可工場で骨を取り除かねばならず、トリミング(整形)肉も危険部位に分類されねばならないと述べたことに端を発する。この実施は実際上不可能と判断され、30ヵ月以上の牛を食用にすることを丸ごと禁止したものである。他のどの国にもない特有のルールである。

 FSAは、この廃止を昨年7月から検討してきたが、イギリスにおけるBSE発生率の減少傾向がはっきりしていること、特定危険部位(高発生国として、フランス等に除去が義務付けれている部位に加え、6ヵ月以上の牛の三叉神経節、胸腺・脾臓、全月齢の羊・山羊の十二指腸から回腸までの腸全体、30ヵ月以上の牛の背根神経節を含む脊椎も含まれる)の除去をしていること、1996年以来、肉骨粉の飼料・肥料としての利用を全面禁止していることで安全性は確保されるとして、この決定に至ったものである。

 この過程で最大の問題となったのは、牛丸ごとの排除をBSE検査に置き換えることにより、人々はBSEに曝されるリスクがどれだけ増えるかという問題であった()。牛を殺して脳を調べるしかない現在の検査では、異常プリオンが脳などの中枢神経組織に蓄積する病気の発病直前まで感染牛を発見できない。しかし、感染はしているが、特定危険部位に指定されているような抹消神経組織等に潜む異常プリオンを検出する検査は実用化されていない。OTMを検査に置き換えるためには、このような病気潜伏期の感染牛が検査をすり抜け、人に感染を引き起こすリスクの評価が不可欠であった。それはBSE発生率とその予測、肉骨粉禁止による発生予防策の実効性など、様々な要因に関係する。今回の決定は、この最終的評価の確実性が認められたということであろう。

 最終的評価では、今後60年間で、BSEの人間版である変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)にかかる人の数は、悲観的評価で5,000人とされた。OTMを検査に置き換え、感染牛が検査をすり抜けることによるリスクの増加は、これに最悪2.5人を加えるだけと推定された。

 他方、OTMを検査に置き換えることによって削減される経済的コストは巨大である。このことから、今回の決断が生まれた。先ず、2004年1月から肉骨粉が全面禁止された1996年以後に生まれた30ヵ月以上の牛を解禁し、その他の30ヵ月以上の牛は2005年7月まで解禁しない計画という。

 ⇒FSAFSA Board to consider replacing OTM rule with BSE testing of cattle(03.7.7)

  (注)日本では、全頭検査しているから感染牛は一頭も市場に出ない、従って検査に合格した牛は安全とされているからこのような問題自体が生じない可能性がある。しかし、日本とイギリスやEUの検査が異なるわけではない。日本では、検査が安全を保証する第一義的手段だと、科学的にではなく、政治的に決定されてしまい、多くの消費者も信じてしまっただけである。しかし、これは国際的に通用しない考え方である。ちなみに、EUのQ & Aから、検査の意義を引用しておく(欧州委員会のQ & AFrequently asked questions about BSE-tests,2000.12.19から)。

 「(問い)

 検査は何のために使うことができるのか?(For what purpose can the tests be used? 

 (答え)

検査はサーベイランスのために使うことができ、また消費者に追加的保護を提供する。

1.サーベイランス

 検査は動物群のなかにBSEが存在するかどうかを決定し、また発生率の指標を得るために使うことができる。継続的検査は発生率の変化を監視するために使うことができる。このタイプのサーベイランスは、動物諸群、特に農場で死亡した牛、または緊急屠殺に出された牛を検査することにより行なうことができる。もしBSEが発生すれば、この群で発見される可能性が相対的に高く、サンプリングが一層有効になる。この方法での病気の積極的(アクティブ)な探索は、受動的(パッシブ)な監視、すなわち農民が疑わしい兆候を報告するのを待つよりも、ある群のBSEを検出する可能性がより高い(もしBSEが存在するとすれば)。

2.追加的健康保護

 BSEは比較的稀な病気である。しかし、屠殺に先立つ動物の日常的検査は、BSEの兆候を示さなかった屠殺に出された動物と、未だ兆候を示していない動物を発見する可能性がある。これらの動物の確認と排除は消費者にとっての追加的保護となるであろう。しかし、消費者保護の最善の方法は、屠殺されるすべての動物から脳や脊髄のような特定危険部位を除去することである。これらの組織は、感染性が存在するとすれば、ほとんどすべての感染性を宿している。特定危険部位の除去は、2000101日以来、EUにおいて義務的になっている」。