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スイス:99年生まれの牛にBSE確認、BSE根絶の困難

農業情報研究所(WAPIC)

03.7.10

 7月8日、スイス連邦獣医局(OVF)が、新たな狂牛病のケースが屠殺場で確認されたと発表した。これは今年12頭目の確認であるが、1999年生まれの牛で初めての確認である。スイスは1998年7月、反芻動物飼料に使われる肉骨粉の考えられるBSE感染性をすべて排除する措置を取った。この措置が取られた後に生まれた別の牛一頭の感染も既に確認されており、措置導入後に生まれた牛二頭にBSEが確認されたことになる。これは、一旦発生したBSEの根絶がいかに困難であるかを物語る。

 フランスが同様な措置を取ったのは1996年後半からであるが、ここでも、それ以後に生まれた牛42頭に既に(2003年1月までに)感染が確認されている。恐らくは、豚や鶏の飼料が、偶然にか故意にか、牛の飼料に混入したと見られている。BSE牛の中枢神経組織1mgという微量でも発病させる力があるのだから、これは十分に考えられることである。しかし、証拠はない。フランスは2000年に肉骨粉飼料を全面的に(豚や鶏にも)禁止した。その後に生まれた牛にはBSEが発見されていないが、これは潜伏期間を考えると当然であり、今後発生がないとは確言できない。

 イギリスでは1996年8月に肉骨粉を全面追放する措置を導入したが、やはり、その後生まれた牛41頭(グレート・ブリテンのみ。同様な措置を取った北アイルランドでも5頭)にBSEが確認されている。この感染が何故起きたのかもわかっていない。この追放措置の執行が不十分であったのか、母子感染があったのか(一頭については、確認時に母牛が生きており、この牛は感染していなかった)、それとも別の未知の感染経路が存在するのか、まったくわかっていない。

 既に病源体が環境中にばら撒かれてしまっているのではないかと恐れる専門家もいる。感染牛の排泄物による牧草汚染、感染発覚を恐れる農家による感染牛の密かな不適切な処分(イギリスではBSEが確認されてもその牛が廃棄処分されるだけであり、十分な補償もあるが、BSE未発生農場からしか牛を導入できない有機農家への販売ができなくなる)や肉骨粉の生産・輸送・廃棄の過程での風・水・動物等による環境中への拡散が考えられる。この場合には、BSE発生は減るかもしれないが、ほぼ永久的に根絶が不可能となる。そればかりか、人間が病源体を直接取り込んでしまう可能性もある(特に肉骨粉貯蔵所や処分場の作業、あるいはその周辺で)。まったく別の環境要因を指摘する人もいる(イギリスのパーディー氏は、マンガン過剰と有機リン系農薬の関与など複合的な原因を指摘する)。この場合には、飼育方法と飼育環境を根本的に変えることで根絶が可能であろう。

 スイスの1999年生まれの牛のBSE確認は、このような反省の必要性を改めて浮かび上がらせる。BSE根絶の野心は、針の一穴ほどの抜け穴で簡単に打ち砕かれる。わが国のコントロールにぬかりはないのか、改めて反省してみる機会でもある。BSEが根絶されないかぎり、牛を食べることなくして生きられなくなってしまった人間「様」も、おちおち食べていられないし、感染防止のための経済的・社会的費用も莫大なものである。