農業情報研究所

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米加墨、「科学的・現実的」BSE関連貿易措置を要求

農業情報研究所(WAPIC)

03.8.27

 フランスの生産者・消費者情報ネット・Agrisalon.comが報じるところによると(*)、カナダ・米国・メキシコの三国農相が、狂牛病(BSE)に関連して「より実際的で、現実的な」リスクを軸にしたアプローチを奨励するように要求する共同書簡を国際獣疫事務局(OIE)に送った。

 それは一頭にBSEが発見されたカナダは、厳格な保護措置を講じたにもかかわらず、巨大な経済的悪影響をこうむっていると指摘、科学に基づき、国際的に受け入れ可能な貿易措置の採択が緊急に必要だと主張している。また、9月に開かれる会合の際、このために必要な対話を開始することを要求している。

 米国は、カナダ牛肉の部分的解禁に踏み切った。先ず30ヵ月未満の牛の骨抜き牛肉のみに輸入許可を与える。メキシコもこれに追随した。カナダは、特定危険部位の除去などの安全確保措置を既に講じており、米国への輸出については、食肉処理も30ヵ月以上の牛を扱わない専用処理場を使うことになっている。カナダ牛肉は、今では実際上、特定危険部位の除去も、原産国の区別もしていない米国牛肉以上に安全とも言える。しかし、カナダでのBSE確認を受けた後に禁輸を決めた日本も含めた30ヵ国以上が、なお禁輸を解いていない。三国の共同書簡は、このような状況がもたらすBSE発生国の破滅的経済被害を防ごうとするものだ。

 このような要請をどう受け止めるべきであろうか。EUは世界一のレベルの安全措置を講じたが、EUからの牛肉を受け入れている国は一つもない。これが正当化され、カナダ牛肉の禁輸が不当とされ得る根拠は、カナダでのBSEはたった一頭なのに、EUでは夥しい数のBSEが発見されているということしかない。しかし、「たった一頭」(あるいは米国の「無発生」)が説得力をもつためには、検査・サーベイランスが十全でなければならない。イギリスでBSEが発見されて10年以上、ドイツやイタリアはBSE未発生を誇ってきた。しかし、死亡牛等の検査が義務付けられるや否や、BSEの存在が確認され、いまやそれぞれ250頭以上、100頭にBSEが確認されている。これらの国がカナダ・米国に劣るBSE予防措置しかもたなかったわけでもない。それでも検査の徹底によって、これだけのBSE発生が確認されているのである。「たった一頭」なら禁輸は不当で、「七頭」(日本)ならば禁輸が正当なのだろうか。

 「科学的」には、BSEはほとんど解明が進んでいない病気である。従って、その予防や人への感染防止の「決め手」も確立されていない。現在の様々な措置は、経験の検証を積み重ねながら、手探りで作り上げられてきたもので、なお完璧とはいえないかもしれない。これらの措置の実施に僅かな漏れがあるだけでも重大な結果をもたらす恐れがあるだけでなく、これらの措置が完璧に実施されたとしても、なお別の穴があるかもしれない。このようなBSEをめぐる「不確実性」こそが、なお第三国がEUの牛・牛肉・牛製品の禁輸を解かないひとつの理由であろう。EUの消費者は、EU産牛肉を、いまやほぼ安心して食べている。それでも、EUはカナダや米国のような要求は出していない。

 百何十という国で構成されるOIEの決定がどう転ぼうと、こうした「不確実性」は確実に残るに違いない。真の「国際合意」は実現しないであろう。輸出依存の大規模牛肉生産に最終的安定の道はあるのだろうか。

 *Le Canada, les États-Unis et le Mexique réclament des mesures internationales scientifiques pour faire face à l'ESB,8.26