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日本:食品安全委員会、牛の脊柱は特定危険部位が妥当の結論

農業情報研究所(WAPIC)

03.9.22

 9月11日、発足したばかりの食品安全委員会が、牛の背根神経節を含む脊柱について特定危険部位に相当する対応を講じることが妥当とする安全性評価結果を発表した(「伝達性海綿状脳症に関する牛のせき柱を含む食品等の安全性確保について」の食品健康影響評価について)。厚生労働省の7月1日の諮問に答えたもので、厚生労働大臣に伝え、今後、関係機関において適切なリスク管理手段を検討するという。

 背根神経節は脊髄から分岐した神経が脊柱から出る前に作る突起である。従来、BSE潜伏後期(未だ発症しておらず、現在のBSE簡易検査でも感染が発見できない可能性がある時期)には感染性を有するとされてきた。背骨と肉を分離する際に骨の側に残るために、骨を砕いて残存附着した肉を篩い分ける「機械的回収肉」(日本では「機械的除骨肉」と呼ばれるようである。ミート・パイなどの安価な肉製品に使われる)の中に含まれる可能性が高い。また、Tボーン・ステーキのような「食肉」に含まれることもある。従って、BSEが人に感染したものとされる変異型クロイツフェルト・ヤコブ(vCJD)への感染防止のために、イギリスでは1995年に機械的回収肉の利用が禁止されたが、2000年10月の「フィリップス委員会」報告は、この禁止までの間にvCJD感染源になり得たと報告している。2000年秋にフランスで狂牛病危機が勃発すると、フランス政府はTボーン・ステーキの禁止に踏み切った。これはEUのなかで突出した単独措置として批判されもしたが、翌年2月には、EUも機械的回収肉とTボーンの禁止を正式に承認した。

 このようなことからして、国際獣医事務局(OIE)に準拠して脳・眼(事実上は舌・頬肉を除く頭部全体)・脊髄・回腸遠位部のみを特定危険部位に指定、特定危険部位の範囲を知見の発展に応じて見直そうとしない厚生労働省の態度には、これまで何度も疑問を呈してきた。昨年9月、OIEが動物衛生規約を改正、新たに頭蓋と脊柱を特定危険部位としたことで、ようやく見直しが始まったものである。今年4月11日に薬事・食品衛生審議会に厚生労働大臣が諮問、5月30日に伝達性海綿状脳症対策部会が開かれ、背根神経節のリスクは脊髄と同程度であるとされた(という)。食品安全委員会がこの評価を最終的に確認したわけである。

 輸入品を含め、背根神経節を含む背骨がどのように利用されているのか、詳細は一切不明である。食用をはじめ、人間への感染源となり得るような利用が一切ないのならば問題はない。そうでないかぎり、この間、日本国民は、脊髄と同程度に危険な部位に曝されてきたことになる。今更この責任はどう取るのかと言うのは益のないことではあるが、一刻も早く適切なリスク管理の手段を講じるのがせめてもの償いだ。同時に、食品安全委員会のリスク評価のあり方の問題点もはっきりした。その結論の根拠は一切示されておらず、ただ伝達性海綿状脳症対策部会の評価を丸ごと認めただけのように見える。これでは、食品安全委員会を設置した意味がない。我々が知りたいのは、委員会独自の客観的評価であり、それを疑わせる余地のないほどの研究が行われたことを示す証拠であって、単なる結論ではない。

 現在、EUは、OIEのが定める範囲を大きく超えて、次のものを特定危険部位に指定している(注)。

 (1)12ヵ月以上の牛の脳と眼を含む頭蓋、尾の椎骨・腰椎と胸部椎骨の横突起を除くが背根神経節を含む脊柱、脊髄。全年齢の牛の扁桃、十二指腸から直腸までの腸、腸間膜。

 (2)12ヵ月以上の羊と山羊の脳と眼を含む頭蓋、扁桃、脊髄。すべての年齢の羊と山羊の脾臓、回腸。

 (3)英国、北アイルランド、ポルトガルについては、以上に加え、6ヵ月以上の牛の舌を除き、脳・眼・三叉神経節・扁桃を含む頭全体、胸腺、脾臓、脊髄が特定危険部位として指定されねばならない。

 また、機械的回収肉の生産のために牛・羊・山羊の骨を使用してはならないともしている。

 ただし、脊柱と背根神経節は次の場合には使用が許される。

 (a)国産牛におけるBSE発生がありそうもないか、ありそうもないがないとはいえないと科学的評価が確認したEU構成国で生まれ、育てられ、屠殺された牛、(b)国産牛におけるBSEが報告されているか、科学的評価が国産牛におけるBSE発生がありそうだと確認したEU構成国において、反芻動物への哺乳動物蛋白質給餌の禁止が有効に執行された日付以後に生まれた牛。そして、このような例外措置を受ける国は、(イ)BSE発生がありそうもない構成国内の牛の密度が低い遠隔地域の死亡牛を除き、農場で、または輸送中に死んだが、人間の消費用に屠殺されたのではない30ヵ月以上のすべての牛、(ロ)人間消費用に正常に屠殺された30ヵ月以上のすべての牛、に対して実施される承認されたBSE簡易検査を行うものとする(この例外措置は英国とポルトガルの30ヵ月以上の牛については与えられない)。例外措置を受ける国は、これらの条件を満たす証拠を提出しなければならない。欧州委員会の専門家が、提出された証拠を検証するための事前通告なしのチェックを実行する。

 このような特定危険部位に関する定めは、まさに食品安全委員会と同様な任務を帯びたEU科学運営委員会の最新の科学的知見に基づく独自のリスク評価の結果である。これらのリスク評価に関する意見書には、必ずその詳細な根拠が付されている。それは、結論の妥当性を委員会外部の者が判断するための基本的材料を提供する。食品安全委員会がこのようなレベルに達するのはいつのことなのだろうか。

 (注)カナダは、今年7月24日から、OIEの勧告に従い、牛の頭蓋・脳・三叉神経節・眼・扁桃・脊髄・背根神経節・回腸遠位部を「高リスク」部位として扱っている。ただし、回腸遠位部は全月齢の牛で「高リスク」部位とされているが、その他は30ヵ月以上の牛に限定している。その根拠は不明。