プリオン病解明に一歩、特定RNA分子が異常プリオンを増幅―新研究

農業情報研究所(WAPIC)

03.10.17

 狂牛病(牛海綿状脳症、BSE)やその人間版とされる変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)などの「プリオン病」は、蛋白質分解酵素に溶けない異常プリオン蛋白質が脳内に増え続けて脳組織を海綿状に変えてしまうことで引き起こされるとされてきた。しかし、このような蛋白質は生体内に特定の蛋白質を作り出すよう指示するRNAまたはDNAを持たないことが確認されている。それにもかかわらず、なぜこの蛋白質が次々と複製されるのか、これはプリオン病をめぐる長い間の謎であった。しかし、この謎解きに一歩前進する新たな研究が現われた。

 英国ニューハンプシャーのダートマス・メディカル・スクールの研究者が、RNAは無害の正常プリオン蛋白質を異常プリオンに変える触媒の機能を果たしているらしいという研究結果を「ネイチャー」誌の最新号に発表したのである(*)。このRNAは感染因を構成するものではない。試験管内の実験で、正常プリオンが自ら異常プリオンに変わるためには、特定のRNAが必要だということを発見したという。哺乳動物のRNAは試験管内で異常プリオンの増幅を刺激したが、無脊椎動物のRNAはそうではなかった。このことは、宿主が暗号化したRNA分子がプリオン病の発病において役割を演じていることを示唆する。

 このことは、もしこの特定のRNAが確認され、クローンされ、生産できれば、プリオン病の治療や早期診断に希望を与えるという。このRNAを添加することで、異常プリオンは12倍の速さで増えた。これは、微量の異常プリオンを検出する敏感な検査の開発を可能にし、生体の検査による診断も可能になるかもしれない。これは早期治療も可能にする。

 他方、同時に、異常プリオンがどのようにして脳に到達するかに関する別の新たな研究も発表された(**)。これについても確定的な科学的結論はなく、謎となっていた。新たな研究は、それが神経細胞を通って脳に達することを明かにした。

 この研究チームは、プリオン蛋白質が多い細胞が脾臓の神経終末に異常に近い場所にあるマウスを遺伝子操作技術で作った。このマウスでは病気の進展が速く、通常よりも30日早く発病したという。これは、プリオンをもつ脾臓細胞を標的とする薬剤が病気の進展を遅らせる可能性を示唆する。また、異常プリオン汚染肉を摂取しても必ずしも病気なならない動物があるように、一定の動物がプリオン病にとくに弱いように見えることの説明の助けになる。脾臓の中のプリオンを含む細胞と神経終末の距離が影響している可能性があるという。

 *Deleault, N. R., Lucassen, R.W. & Supattapone, S. RNA molecules stimulate prion protein conversion. Nature, 425,717 -720, doi:10.1038/nature01979 (2003). )
 **Prinz, M. et al. The distance between follicular dendritic cells and nerves controls prion neuroinvasion. Nature, published online, doi:10.1038/nature02072 (2003).

 関連ニュース
 New test may help diagnose CJD,Nature News,10.16

農業情報研究所(WAPIC)

グローバリゼーション 食品安全 遺伝子組み換え 狂牛病 農業・農村・食料 環境