筋肉にもかすかなヤコブ病リスク、スイス研究チーム

農業情報研究所(WAPIC)

03.11.8

 スイス・チューリッヒ病院大学のアドリアーノ・アグッチ博士率いる研究チームが、従来にない敏感な検査方法で孤発型クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)患者の筋肉と脾臓に病原関連物質の異常プリオンを検出した。1996年から2002年の間に亡くなったCJD患者36人の筋肉32、脾臓28のサンプルを分析したもので、脾臓では10、筋肉では8のサンプルに異常プリオンが検出された。この研究は、“New England Journal of Medicine”に発表された(*)。

 この結果から、手術具を通してのCJD伝達の可能性が改めて問題になる。最近、英国やカナダで、手術後にCJDとわかった患者を手術した手術具で多数の別の患者に手術が施され、これらの患者にCJD伝達の恐怖を巻き起こした。従来、既発のCJD患者の脳や扁桃の手術に使われた手術後による伝達のリスクは、微小ながらも理論的にはあり得るとされており、この経路で伝達されたと考えられるCJDも世界で5 例報告されている。このために、このような形での伝達を防止する一定の対策が講じられてきた。しかし、このリスクが筋肉の手術でもあり得るとすれば、従来の対策では不十分であるかもしれない。BBC News(Muscle ‘could pose tiny CJD risk’,11.6)によると、英国の微生物学者・ヒュー・ペニングトン教授は、筋肉組織がリスクを呈するかどうかの問題が生じるが、仮にそうであっても、リスクは微小と言っている。しかし、アグッチ博士は、少なくとも理論的リスクはある、孤発型CJDの医療行為を通じての伝達の可能性をめぐる懸念を生むと語っているという。

 スイスでは、近年、孤発型CJDが急増する傾向があるが、その原因は究明されていない。イギリスでも90年代初めには毎年30件程度発見されていた孤発型CJDは、現在では50件から80件ほどになっている。米国では98年の44件から年々急増、2001年には138件になった。日本については、1999年(4-12月)82件(うち硬膜移植例5)、200091件(4)、01124件(4)、02138件(5)とやはり増加傾向が見られる(厚生労働省健康局疾病対策課、厚生科学審議会疾病対策部会クロイツフェルト・ヤコブ病等委員会(03.2.12)資料)。監視が強化されただけのことかもしれないが、いずれにせよ、増加の原因は確認されていない。昨年11月には、ロンドン・ユニヴァーシティ・カレッジの研究チームが、人間のプリオン蛋白質を備えた実験用マウスの脳にBSE感染物質を注入すると、一部のマウスは予想通りにBSEが人間に伝達したものとされる変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)を発病したが、他のマウスは人間の孤発型CJDと区別ができない型の脳症にかかったと報告した(狂牛病関連病はvCJDだけではない、孤発型CJDにも関連の可能性,02.11.29)。孤発性CJDとされているもののなかには、BSEに感染した牛からきたものもあり得ることを示唆したわけである。孤発型CJDの発生動向と見極めは、今後ますます注意を必要とすることになろう。

 * Adriano Aguzzi et al, Extraneural Pathologic Prion Protein in Sporadic Creutzfeldt?Jakob Disease, New England Journal of Medicine, Volume 349:1812-1820, November 6, 2003

 その他関連ニュース
 Forme clasique de la maladie de Creutfeldt-Jakob:des prions decouverts dans le muscle,Agrisalon(Source OVF de Suisse),11.6

農業情報研究所(WAPIC)

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