米国農務長官、牛識別システムに前向き発言、だが実施はいつのことか?

農業情報研究所(WAPIC)

04.1.22

 21日、ベナマン米国農務長官が下院農業委員会で証言(Transcript of Remarks by Agriculture Secretary Ann M. Veneman Before the House Agriculture Committee January 21, 2004)、できる限り早期の全国規模牛識別システムの実施の必要性に言及した。

 長官は、農務省(USDA)は18ヵ月にわたり牛識別システムをいかに組織するか研究してきたが、今やその実施を速めようとしていると語った。彼女は、「私は迅速な実施の必要性を理解している」と言う。これは当然に見える。米国でBSE発生が確認されて以後、感染牛がカナダ生まれであることを突き止めるのにDNA検査まで使わねばならなかった。感染牛が生まれた牛群から米国に輸入された牛が80頭いることはわかったが、これらの牛が今どこにいるのか、未だに24頭までしか突き止めていない。

 BSEの拡散と人間への感染を防ぐためには、感染牛はもとより、感染のリスクが高い牛を加工・消費前に排除せねばならない。すべての牛の固体識別システムとそれに基づく個別の牛の履歴の追跡システムは、これを可能にするための不可欠な要素の一つである。これが不備では、米国にはBSEは存在しないとか、米国牛肉は安全などといった主張も根拠が危うくなる。

 だが、長官は、連邦政府が組織し・資金も供給する統一的システムにすべきなのか、それともUSDAが牧場経営者や牛肉産業に対して、様々な方法で適用できる基準を設定すべきなのか、なお議論が進行中と言う。早期の決定がなされたとしても、実施までには時間がかかる(1年、2年、3年・・・?)。長官の意欲的発言にもかかわらず、米国や日本の外食産業が求めるような米国牛肉の早期の輸入解禁時期にはとても間に合わないだろう。

 ところで、米国の牛固体識別システムの現状については、米国のBSE発生を受けて派遣された日本の調査団の調査課題にもなっていなかったようだ。だが、これはBSE感染防止策の前提となるものだから、米国のBSEリスク評価の欠かせない要素である。ことのついでに、EUが2000年7月に発表した米国のBSEリスク評価報告(Report on the Assessment of the Geographical BSE - Risk of USA )から紹介しておこう。それは現在の状況と基本的には変わっていないはずである。この現状では、例えば、日本が12ヵ月以上の牛の脳・脊髄などの除去や、20ヵ月以上の牛の「全頭検査」を要求しても、個々の牛の月齢が識別できないのだから、実施のしようがない。月齢で区切るとすれば、外見から一見して分かる30ヵ月で区切るしかないことになる。

 付録:EUのBSE評価における米国の牛識別システム 

・既存の家畜識別システムは州と連邦の代表者が共同で運営、各州につき個別に維持されている。中央に集中された家畜識別システムは存在しない。

・各州内では、家畜は、ブルセラ病や結核のような病気の防除・撲滅計画で登録されるに際して、二桁の数字と唯一の番号をもつ金属耳タグを付けられ、州のデータベースに登録される。

・加えて、家畜が州間を移動するときには移動許可(適切な識別を伴う)が必要である。

・米国の専門家によれば、このシステムによって、すべての牛のおよそ95%が公的タグをもち、州のデータベースに登録されることになると推定される。

・州のデータベースは連邦のデータベースに連結されていないが、同等なデータの抽出は十分に可能である。

・繁殖団体はそれぞれが自身の識別システム(典型的には耳タグ)をもち、これらのデータベースは追加的情報源となる。

・また、牛群はそれぞれの固体識別システム(タグまたは焼印または入れ墨)をもつ。市場/販売の間には背中のタグ(一回かぎりの紙登録ナンバー)が使われ、牛が他の適切な識別標識をもたないで屠殺に出されるときに履歴を辿る情報源を提供することになる。

・個別の牛の履歴を辿ることは、当該の牛が特定の州の内部で何回か移動しなかったときには、いつでも可能である。

州内移動はいかなるタイプのデータベースにも記録されず、履歴を辿るためには文書記録または各オーナーの記憶に頼るしかない。

・80年から89年の間に英国とアイルランドから輸入された496頭の牛のうち、32頭(99年5月段階)を除く牛を突き止めることができた。

 なお、最近、マクドナルドなど、一部食肉小売業者・レストランなどでは独自の識別システムを設け、出生まで辿れるようにようになっていると聞く。

農業情報研究所(WAPIC)

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