羊にBSEの初のサイン、米国ではCJDのクラスター、緊急を要する調査の加速

農業情報研究所(WAPIC)

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 英国環境・食料・農村省(DEFRA)は7日、獣医学研究所(VLA)が英国に従来見られなかったスクレイピーの型を発見したと発表した(DEFRA INVESTIGATES AN UNUSUAL SCRAPIE CASE)。スクレイピーで死んだように見える羊が実際にはBSEに感染しているのではないかどうかを決める4歳の羊一頭の検査で、一部の特徴が羊に実験的に感染させたBSEと類似しているが、同時に一部の特徴は実験的なスクレイピーの株に類似している従来にない型が発見された。これは三つの簡易検査のうちの一つ・ウエスタン・ブロット法で発見されたもので、他の二つの検査ではBSE類似の特徴は認められなかった。脳の顕微鏡検査でも、このケースは従来認められたスクレイピーの型とも、実験的な羊のBSEとも認められなかったという。

 スクレイピーは人間には感染しないと信じられている羊の海綿状脳症である。80年代と90年代初め、羊もBSEに感染した牛の肉骨粉を与えられているから、羊がBSEに感染している「理論的」可能性は存在した。しかし、BSEとスクレイピーを区別する簡単な検査はなく、実験的にBSEに感染させた羊はスクレイピー同様の症候を示す。このために、実際の農場でのスクレイピーのなかにBSEが隠れている可能性が疑われ、VLAやその他のヨーロッパの研究所は、スクレイピーを疑われる羊の組織をいくつかの簡易検査で調査してきた。今回の型はこのような調査のなかで初めて発見されたもので、羊のBSEの最初のケースかと疑うこともできる。

 3月30日の専門家会合は、このケースは羊のBSEとは考えられないと結論したが、この異常な結果をどう解釈するかについてこれ以上何が言えるかは、今後のさらなる調査に待たねばならないとも言う。そのためには、新たな検査方法の開発が必要になろう。現在、長期的なマウス実験に基づくより繊細な方法で羊の脳を検査している。2年以内にはBSEなのか、単なるスクレイピーの株なのか決定できるだろうという。DEFRAも、食品基準庁(FSA)も(TSE in sheep statement)、BSEという明確な証拠はないから、ラムや羊の内臓(腸など)の販売に関する既存ルールを変える必要はないとしている。現在、12ヵ月以上の羊と山羊の脳と眼を含む頭蓋、扁桃、脊髄、すべての年齢の羊と山羊の脾臓、回腸が特定危険部位として、すべての利用から排除されている。

 だが、この結果は消費者の不安を掻き立てないわけにはいかないように思われる。収まりかけたBSEへの不安が再燃するかもしれない。

 この例が示すように、BSEについては、なお未解明の分野が多く残されている。米国では、ニュージャージーにクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の「クラスター」(集中発生地域)があるのではないかという指摘がかなり前からなされてきた。一競馬場で牛肉製品を食べたことが共通している29歳の黒人女性を含む13人にCJDが発生していることを突き止めた女性が、これら孤発型CJDによる死者のなかには、BSEからきたCJDによる死者が含まれているのではないか調査を要求してきたのだ。一部ミニコミやマイナー紙に取り上げられきたこの問題は、ついにニューヨーク・タイムズ紙も取り上げるところとなった(The Case of the Cherry Hill Cluster,3.28)。女性の要請を受けた州選出のローテンバーグ、コーザインの両上院議員は、疾病予防センター(CDC)に調査を求める書簡を送った。

 しかし、この調査が行われたとしても、BSE由来のCJDを確認するのは、現状では難しいだろう。この国では、CJDの報告自体が義務化されていないし、多くのCJD患者もアルツハイマーと誤診されている。そのうえ、CJD死者もほとんどは解剖されずに葬られるから、この問題を長く追及してきた専門家も、分析のサンプルの収集に苦戦しているのが実情だ(Human brains examined for clues about mad cow,The New York Times,04.1.27)。その上に、BSEからきたvCJDには孤発型CJDと区別がつかない場合があり得るという研究もある(狂牛病関連病はvCJDだけではない、孤発型CJDにも関連の可能性,02.11.29)。孤発型CJDは増加傾向にあるから(日本でも)、羊のスクレイピーのなかにBSEが隠れているかもしれないのと同様に、人間の孤発型CJDのなかにBSEからきたものが隠れているかもしれないという懸念が高まる。

 だが、これを確認する手段がないのが現状だ。不安が高まる恐れがある。少なくとも、人間が感染する確率はかぎりなく小さいから、いたずらに心配することはないという「専門家」のご託宣は通用しなくなるだろう。調査・研究の加速は緊急を要する。

 農業情報研究所(WAPIC)

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