政府、20ヵ月以下の牛のBSE検査除外を諮問へ 米国牛肉年内輸入再開の報道

―基本的リスク評価は完全に無視するのか―

農業情報研究所(WAPIC)

04.10.6

 6日付の毎日新聞が、「政府は5日、BSE(牛海綿状脳症)国内検査からの「生後20ヵ月以下の牛」の除外を今週末にも決定し、食品安全委員会に諮問する方針を固めた。同委は2〜3週間で除外を認める答申を出す見通し。これにより、米国産牛肉の輸入再開を目指す日米局長級協議の今月中の開催がほぼ確実になり、年内に輸入が再開される公算が大きくなった」と報じている(東京朝刊、1面)。

 「この日、相次いで開かれた衆院農林水産委員会と、市民との意見交換会(名古屋市)で「食品安全委の中間報告で生後20ヵ月以下の感染検出は科学的に困難」などと説明したことで、野党と消費者への説明責任は果たしたと判断した。さらに臨時国会(12日召集)前に食品安全委に諮問したいという意向も強く、与党の了承を得たうえで諮問することになった」のだという。

 「生後20ヵ月以下の牛」の国内検査除外と米国牛肉輸入再開は、本来は無関係のはずだが、「政府は今後、米政府と日米協議の日程調整に入る」そうである。検査の問題さえ片付けば、輸入再開の条件は整ったということなのであろう。しかし、「生後20ヵ月以下の牛」の国内検査除外でさえ、「野党と消費者」が納得したわけではない。「説明責任は果たした」と言うのは、「ガス抜き」手続を終えたというにすぎない。

 そもそも、「生後20ヵ月以下の感染検出は科学的に困難」という食品安全委員会の結論自体が間違っている。現在の検査についてのほぼ確かな事実(多くの専門家が認めている事実)は、「発症3ー6ヵ月前」以前の潜伏期感染牛は発見できないという「検出限界」があるということだ。牛の月齢とこの検出限界とは、本来まったく無関係だ。月齢が進むに連れて発症に近づく感染牛の数が増えていくから、検査にひっかかる牛の数も増えるだろう。だが、これは、20ヵ月以上、30ヵ月以上、40ヵ月以上の感染牛ならばすべて見つかるということを意味しない。20ヵ月、30ヵ月、40ヵ月で発症する感染牛がいるとすれば、それぞれ14ー17ヵ月、24ー27ヵ月、34ー37ヵ月になれば見つかるかもしれないというにすぎない。例えば、40ヵ月で発症するはずであった感染牛は33ヵ月のときに検査しても、感染を発見することは「困難」なのだ(消費者が1頭でも発見できる可能性があるかぎり、「全頭検査」を求める気持ちは理解できる。その継続の是非は消費者が決めることだ。だが、消費者も、全頭検査によっても見逃される感染牛があること、というよりも見逃される感染牛の方が多いだろうことは、しっかりと頭に入れねばならない)。それにもかかわらず、「20ヵ月以下では」検出困難としたのは、他意があっての結論の捏造としか考えられない。

 従って、何ヵ月の牛であろうと、検査結果が「陰性」の感染牛はいくらでもあり得ることになる。だからこそ、EUが言うように、検査はあくまでも「副次的」な安全対策にすぎず、何よりも肉骨粉の「有効な」禁止により感染牛の数をゼロに近づけ、またそれでも根絶はできないかもしれない感染牛から来るリスクを減らすための特定危険部位の「有効な」排除が基本的安全対策(BSEは未解明な病気であるから、それでも完全ではないかもしれないが、現在考えられる限りでの最大限のリスク軽減策)となるわけだ。

 検査で発見できる潜伏期感染牛があるのだから、検査のあり方とリスクの大きさは全く無関係とはいえないが、BSEが存在するかぎり、検査のあり方がどうであろうと、リスクは存在する。感染牛の数が増えるほど、特定危険部位の排除がズサンなほど、このリスクは大きくなる。国内対策であれ、貿易政策であれ、このような基本的リスクの評価を怠り、専ら検査体制だけに焦点が当てられてきたこと、当てられていることが現在の最大の問題なのだ。全頭検査(またはその廃止)の問題で争っている場合ではない。それは、先ずこの問題を片付けてからの話だ。

 だが、年内輸入再開ということなら、この問題は、相変わらず無視されるということだろう。同じ6日付の日本農業新聞は、食品安全委員会の寺田雅昭委員長が、米国産牛肉の安全評価では、同国のBSE汚染状況の把握が重要な要素だとの認識を示し、その上で同国が検査対象の割合が少ないこと(筆者は、より大きな問題は検査が義務化されておらず、検査対象が恣意的・作為的に選ばれていることだと考える。<尿で汚れてすべりやすい搾乳室で転び、怪我で立ち上がれなくなった>「ダウナーカウ」ばかり検査、真にBSEの疑いがかかる神経症症状の牛の検査は避けるなど―日本農業新聞、04.10.4)、肉骨粉規制がEUや日本より緩いことを問題点として指摘したと報じている。この問題が何時になっても片付きそうにないことは、既に何度も指摘してきたところだ。

 だとすれば、「日米局長級協議の今月中の開催」に間に合わせて、食品安全委員会が輸入再開にゴーサインを出せるはずがない。政府は食品安全委員会を無視して年内輸入再開を決めるのか。無理矢理ゴーサインを出させるのか。それとも、食品安全委員会自身が、米国のBSEリスクは低いというもっともらしい理屈を考案するのだろうか。EUのリスク評価(注)に照らせば、これは誰も納得しないだろう。食品安全委員会など、誰も信用しなくなる。消費者は米国牛肉(国産牛肉も)のボイコットに走るかもしれない。

 (注)米国の地理的BSEリスクの評価に関する作業グループ報告(欧州食品安全庁),04.9.4