農水局長、飼料規制は輸入再開条件ではない、が、最終的に決めるのは食品安全委

農業情報研究所(WAPIC)

05.3.12

 先月25日、このホームページで、2月24日の衆院農水委の質疑における中川消費・安全局長の「飼料規制は牛から牛へのBSEの伝播を防止する上で重要だが、牛肉の安全性を確保する措置ではない」という発言を問題にした(BSE対策、飼料規制は「牛肉の安全性を確保する措置ではない」 農水消費・安全局長,05.2.25)。これは、民主党の山田正彦議員の「内外同一というなら、なぜ米国に対し輸入再開条件で肉骨粉の飼料規制を求めないのか」と聞いた際の中川局長の答弁に関する新聞報道に基づくものであった。従って、議事録が出て、実際の局長発言がこれと違っていると分かれば「この記事は取り消すことにする」と書いておいた。漸く議事録(⇒http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kaigiroku.htm)が出て、多少の事実誤認があることが分かったので報告することにしたが、記事を取り消したり、訂正する必要もないことも判明した。

 山田正彦議員の質問に対する答弁というのは間違っていた。中川局長の発言は、山田議員ではなく、山本喜代宏議員の質問に答えたものであった。しかし、質問と答弁の趣旨自体は違わない。なお、山本議員の前に質問に立った山田議員も山本議員と同趣旨の質問をし、これに対しては、島村農相が中川局長と同主旨の答弁をしている。報道はこのために混乱したのだろう。

 山本議員は、「米国産牛肉のリスク評価」に関連して、「飼料規制というのが極めて重要になっていくわけでございまして、内外同一ということであれば、なぜアメリカに飼料規制を求めないのか、これについて、私、ちょっと納得がいかないので、答弁をお願いします」と発言した。少々長くなるが、これに対する中川局長の答えを紹介すると次のとおりである。

 「飼料規制をきちっとしていくということは、牛から牛へのBSEの伝播を防止するという意味で大変大事な点だというのはもう先生御指摘のとおりであります。

 ただ、申し上げますけれども、日本がアメリカから輸入するのは牛肉であります。その牛肉の安全性の確保の措置として日本の国内と同じものを要求するというのは、これまでずっと貫いてきた私どもの基本的な立場でございます。

 そこで、先ほども申し上げましたけれども、飼料規制というのは、BSEの病原体が牛から牛に伝播するところを防止するという意味では、極めて大事な、また、それぞれの国で牛のBSEを根絶するという意味でも大変大事な措置ではありますけれども、牛肉そのものの安全性を直接確保する措置ではないということで、アメリカに対して要求をします際の基本的な条件というのは、特定危険部位をすべての月齢から除去するということ、それから、BSEの検査ということからいけば、日本が二十カ月以下の牛についてのBSEの検査を義務づけないという条件のもとで、二十カ月齢以下ときちっと判断された、証明された牛由来の肉に限る、この二つの条件をこれまでも主張してきたところでございます」

 質問の主旨も、答弁の趣旨も、報道されたことと違わない。山本議員が納得するはずがない。さらに、

 「いや、わかりますよ。ただ、日本は、BSEをこれ以上蔓延させてはならないということで肉骨粉禁止ということをやっているわけですね。日米のワーキンググループの中では、アメリカの肉骨粉規制が不十分だと。去年の日本の政府の調査団の中でも、今後もアメリカでは発生し得るというふうに判断しましたよね。そうした場合、もし仮にですよ、もし仮にアメリカで今後BSEが発生した場合においても、肉は安全だということで、これは肉が入ってくるということになるんですか」と聞くと、中川局長は、

 「ですから、入ってくる肉の安全性については、食品安全委員会の御判断を待って、最終的にアメリカとの間での輸入条件というものが決まるということでございます」と、最終的な輸入条件の決定を食品安全委員会に判断に委ねてしまった。

 他方、プリオン専門調査会の11日の会合で、20ヵ月以下の牛を検査対象から外すことを容認する方向が固まったらしい。微小とはいえリスクレベルの低下があり得るのだから、どうしてもそうしなければならないという特別の理由、あるいは安全レベルの多少の低下を埋め合わせるほどの何らかのメリットがないかぎり、それ自体、正当化されるものではない。

 マスコミは、これで米国産牛肉の輸入再開のメドが立ったと一斉に報じている。それが最大のメリットなのだろう。そのマスコミさえ、輸入再開には米国産牛肉のリスク評価が残っているとは言う。だが、大方は、最大の問題は肉質による月齢識別を食品安全委員会が認めるかどうかだと言うのみだ。米国のBSEリスクを問題にしたのは、見た限りでは東京新聞だけだ(食品安全委に外圧の”暗雲” 米「清浄」宣言で攻勢へ、3月12日 朝刊)。

 食品安全委による輸入再開に関する「議論の焦点は、米国の牛はどれくらいBSEに汚染され、今後の危険度はどの程度か、ということだ。米国で見つかった感染牛は一頭だが、検査データは圧倒的に少なく、感染度が高い死亡牛検査も不十分。議論は少なくとも”未検査の牛(約99%)に感染牛はいなかっただろう”という結論にはなりにくい」と指摘する。

 それにもかかわらず、「議論が進む五月下旬、パリで開かれる国際獣疫事務局(OIE)の総会」で、「米国は・・・”BSE暫定清浄国”を宣言する。同時にOIEの清浄度ランクが現在の五段階から三段階に簡素化され、新基準では米国は最下位にランク付けされる可能性が濃厚だ。こうなれば、米国から直接的、間接的な圧力が日本に及び、政治的な圧力に敏感に反応する科学者を核とする食品安全委員会の議論が混乱する恐れもある」と懸念する。 

 食品安全委は、政治的圧力(政府は「安全委に答申時期のメドを求めることを検討している」というー日経、3.12)に屈することなく、また月齢識別方法のような技術的問題の議論にとどまることなく、国産牛肉のリスク評価で行っている飼料規制の有効性の検証を、米国にも拡張すべきである。

 中川局長の言う輸入再開の「二つの条件」は日米交渉で既に合意されてしまったことであり、この合意をを覆す「蛮勇」は政府にはない。それでも、局長は、最終的な輸入条件の決定を食品安全委に委ねたのだ。これに飼料規制を含めることなど思ってもみないのだろうが、遠慮する必要は毛頭ない。