台湾、カナダ産牛肉も解禁か OIEの新BSE貿易基準案で早急な立場確立が必要

農業情報研究所(WAPIC)

05.3.28

 わが国マスコミは、国際獣疫事務局(OIE)が5月の総会で特定危険部位(SRM)を除いた骨なし牛肉の輸出入を無条件で認めるという新たな貿易ルールを提案すると報じている。BSEに関する新貿易基準案を各国政府に提示したという。農水省は、新たな基準案は4月始めにに公表するいうから、真偽のほどは未だ分からない。しかし、島村農相も、25日の記者会見で、「OIEがBSEの安全基準について、特定危険部位を除去した肉については無条件で輸入を認めるべきではないかという緩和策をまとめたという報道がありますけれども・・・」の質問に対し、「本年5月の総会においてBSE基準の改正案が議論されることとなると思いますが、そのBSE基準の改正案によれば、骨なしの牛肉について、輸出国のBSEリスクにかかわらず、どのような条件も要求すべきでないとする内容となっていますね」と言っているから確かなことなのだろう。

 そうしたなか、台湾が米国産牛肉の輸入再開決定(台湾が米国産牛肉輸入再開へ,05.3.24)に続き、カナダ産牛肉の輸入再開も決めそうだ。保健省(DOH)の食品安全局次長が26日、この問題は28日の省食品安全委員会で討議すると語ったという(Import ban on Canadian beef may be lifted: DOH,The Taipei Times,3.26)。これは、SRMを除いた牛肉は安全だから貿易規制は無用という流れを強めることに寄与しよう。

 The Korea Times紙によると、韓国農林省は25日、科学的方法でBSEからくる安全が検証されるまで、米国産牛肉の輸入禁止を解くつもりはないと明言した。担当官は、「この問題では我々は明確な一線を引いてきた。専門家は未だ米国産牛肉の安全性を確信するに至っていない」と言う。台湾が輸入再開を決めたというニュースに用心深く応えたもので、台湾の決定が韓国の決定に影響を与えることはないと確認する(Early Resumption of US Beef Imports Unlikely,The Korea Times,3.25)。台湾と日本が米国産牛肉輸入再開に合意するなか、農林省広報局の次長も、台湾その他のアジア諸国の輸入再開決定で韓国への圧力が強まっているが、「我々は食料輸入のための自身の基準を持っている。他の国からの食料はこの条件を満たしたのちにのみ韓国市場に入ることができ、米国からの牛肉も例外ではない」と語る。韓国と米国の検疫・獣医専門家は、輸入される米国産牛肉の安全性を検討するための会合を今週開く予定だが、延期される可能性が高い、最終決定は会合の結果にかかっていると言う。

 しかし、台湾がこの状態で、しかも日本の立場も不透明な状況で、韓国もどこまで持ち堪えられるか分からない。日本は早急に立場を鮮明にする必要がある。農相は、「OIE総会に向けて、関係省庁とよく連携しながら、我が国の専門家や消費者の方々との意見交換を踏まえた上で適切に対応していきたいと」と言う。だが、それならば何故一刻も早く詳細な改正基準案を公表しないのか。そうでなければ、この問題に関する本格的議論を始めることさえできない(注)。

 (注)3月10日に開かれた食品安全委員会のリスクコミュニケーション会合(東京)でベルナール・ヴァラOIE事務局長が5月総会に提案される改正基準案の概要を講義しているが(http://www.fsc.go.jp/koukan/risk170310/170310_vallatslide.pdf)、その全容も、それと今回の新提案との関係も未だわからない。専門家には伝わっているのかもしれないが、意見交換を求められる消費者には未だに分からないというのはおかしな話しだ。

 事務局長の概要説明では、主要改正点は、

 1.現在のリスクレベルの清浄、暫定清浄、最小リスク、中位リスク、高リスクの5分類から、@リスクが無視できるほどに小さく、牛由来のすべての部位や製品を食料・飼料・肥料・化粧品・医薬品を製造する目的で取引できる国(地域)、ASRM(すべて月齢の牛の扁桃と回腸遠位部と今後決められる月齢の脳・眼・脊髄・脊柱、これらに由来する蛋白質)以外の牛由来の部位と製品を食料・飼料・肥料・化粧品・医薬品を製造する目的で取引できる程度のリスクの国(地域)、B同じくSRM以外の牛由来部位・製品を輸出入できるリスクレベル不明国(地域)の3分類に変えること、

 2.分類のためのリスク評価の基準から「有病率」を除くこと、

 3.SRMを12ヵ月以上の牛の脳・眼・脊髄・脊柱から、今後決められる月齢の牛の脳・眼・脊髄・脊柱とすべての月齢の扁桃と回腸遠位部に変えること、

 4.サーベイランス基準を見直し、とくにサーベイランスのためにすべての牛を検査する必要がないことを確認すること

にあるようだ。

 1、2が実現すると、BSE発生の有無、BSE発生率を基本的基準とする従来の分類基準では、サーベイランスの不備のために非発生国であったにすぎない潜在リスク国も貿易規制に服さねばならないA、Bに分類される可能性が出てくる。BSEが発生すれば直ちに輸入を禁止してきたが、潜在リスク国からくるリスクにはまったく無防備であった日本を含む多くの国のBSE防御策の欠陥が是正される可能性があろう。米国も、「非発生」だからと安閑としていられない。だから、骨なし牛肉ならば無条件で輸出入できるという新ルールを急遽提案したのだろうか?

 3は米国の主張に完全に沿うもので、これに関する科学的見解は完全に分裂するだろう。

 4については、BSE発見の破滅的結果を恐れ、検査サンプルの恣意的採集によるBSE隠しが横行するのを防ぐためには、一定月齢以上の死亡牛、緊急屠畜牛等の全頭検査の義務付けが不可欠なことは経験が教えている。

 議論すべきことはいくらでもある。