北米が調和的BSEリスク管理戦略策定 最小限基準実施で牛肉は安全の貿易できる

農業情報研究所(WAPIC)

054.2

 米国農務省(USDA)が4月1日、カナダ・メキシコ・米国によるBSEリスク軽減のための調和的アプローチに関する報告書を発表した(Harmonization of a BSE Strategy;http://www.aphis.usda.gov/lpa/issues/bse/04-01-05na_bse_harmonization.pdf)。これは、メキシコ、カナダ、米国の動物保健担当高官が3月17日にメキシコ・シティーで開かれた北米におけるBSEリスクを有効に管理するための措置の共通の最小限基準の策定に関する会合の結果という。報告は、公衆衛生当局の代表者を含む以前の会合の結果も踏まえたものである。これらの会合で開発されたBSEリスク管理の科学に基づく枠組みは、北米域内での反芻動物と反芻動物製品の貿易の正常化を助け、国際獣疫事務局(OIE)のガイドラインと整合的な国際BSE戦略を促進するためのものという。

 それは、人間食料からの特定危険部位(SRM)の排除、へたり牛の食用と畜禁止(一定の牛は例外)、スタンニング・ピッシングの禁止、頭蓋・脊柱からの機械的分離肉の禁止、一定品目を除く品目の貿易の禁止またはリスク評価に基づく輸入条件の設定、高リスク牛の焦点を当てたサーベイランスの実施、適切な動物識別・追跡システムの存在などの最小限基準が実施されれば、すべての牛の牛肉・牛くず肉・生きた牛は安全に貿易できるとする。

 ここで定められた最小限基準は、わが国の米国産牛肉輸入条件や5月のOIE総会におけるこれら三国の主張にも関連しよう。以下に、この報告の内容を紹介する。

 最小限基準

 会合の結果、主席獣医務官(CVO)は北米におけるBSE措置の最小限基準を開発した。これらの最小限基準は各国の動物保健・公衆衛生当局者がそれぞれの規制過程で考慮すべきもので、北米全体の成文法となるものではない。また、それは現在貿易されている品目に関する要件を変えるものではない。

 特定危険部位(SRM):人間消費用の食料の輸出に関して、人間消費用の食料に入ってはならないのは、30ヵ月齢以上の牛の脳、頭蓋、眼、三叉神経節、脊髄、脊柱、背根神経節[脊神経節]、すべての月齢の牛の扁桃と回腸遠位部。SRM除去は可食組織の汚染を最小限にする方法で行われねばならない。

 歩行不能な牛[へたり牛、ダウナーカウ]:輸出向けのこのような牛を人間消費用にと畜することは禁止される。現在、メキシコとカナダは、米国に輸出すると畜場でのこのような牛のと畜を禁止している。米国は、と畜に出されたとき、このような牛すべての受け入れを拒否している。

 しかし、ダウナーカウがBSEと無関係な理由でと畜から排除される可能性がある。例えば、カナダは、動物福祉上の理由で、このような牛の輸送を禁止する規制を開発中である。また、代替措置がBSEに対する同等の措置を提供することも認める。例えば、このような牛でも非常に若い牛(例:子牛肉用の牛)は「BSEに感染していることはありそうもない」[これは間違いだ。少なくとも、「感染していても、感染性は非常に低いと言うべきところだー筆者]。同様に、獣医は、BSEの症候を示さない高齢牛がと畜場に輸送される間に怪我をするなど、明白な理由で歩行できなくなったと決定することができる。さらに、検査の結果が陰性の歩行できない牛は、EUや日本の食料チェーンから排除されていない。[従って、このような牛すべてを排除する必要はない]。

 スタンニング:ピッシングと空気注入スタンニングは禁止される。

 機械的肉分離工程:この工程から生じる製品がSRM排除の要件を満たすことを保証するために、適切な工程管理を実施する。例えば、30ヵ月以上の牛の頭蓋と脊柱から機械的に獲られた肉は禁止される。

 輸入コントロール:輸入要件は、牛乳、精液、受精卵などの特定品目は輸出地域のBSEリスクのステータスと無関係に、安全に貿易できること、他方、一部品目はBSEに冒された(affected)地域から貿易されてはならないことを認めねばならない。他の品目については、輸入措置は輸出地域の相対的リスクと輸入品目の相対的リスクに基づくべきである。

 サーベイランス:もしBSEが存在するとすれば、高リスク牛集団に焦点を当てるサーベイランスが最も有効な方法である。地域の成牛集団に焦点を当てるBSE発見のための標的を絞った能動的サーベイランス計画が実施されている。現在のサーベイランス計画は、2005年5月にOIEにより採択されるいかなる調整にも完全に合致する。

 反芻動物飼料制限:反芻動物たん白質(乳と乳製品は除く)の排除、交差汚染の回避、検証活動の実行をを含むBSE病原体の増殖または拡散を防止するための有効な飼料制限の達成。

 動物識別システム:サーベイランスの標本採取計画の無欠性と疫学的トレースバックの成功(特に出所地とそれに続くすべての病原体暴露地点を遡ってつきとめる能力)を保証するための適切な動物識別システムが存在すること。地域内での識別システムの適合性は、国レベルのシステムの開発に応じて考慮されねばならない。

 リスク・アセスメント:国または区域の牛集団のBSEリスクのステータスの決定は、(病原体の)放出アセスメント、暴露アセスメント、結果のアセスメント、リスク推定に基づく。

北米域内での貿易

 長期的目標は反芻動物及び反芻動物製品の貿易条件をOIE基準の諸規程に沿うものにすることであるが、より短期的に、これら最小限基準が実施される地域の貿易条件が策定されるべきである。

 牛肉とくず肉(可食・不可食くず肉を含む):すべての月齢の牛からの牛肉(骨なし及び骨付き)及び可食・不可食くず肉(SRMを除く)は、公衆・動物の健康を護るための有効な措置が実施されていれば、安全に貿易できる。SRMの除去は、公衆の健康を護るための適切な措置であり、有効な反芻動物飼料制限は動物の(病原体への)暴露を防ぐ。

 生きた牛:北米域内での最小限基準の実施は地域内での生きた牛の貿易にも関連する。動物は地域内で動くから、その追跡と識別の能力は基本的要素である。最小限基準、特にSRM除去と飼料制限は、生きた牛(即時と畜用及び肥育用の両方)の貿易を許す適切な保護を提供する。繁殖牛の貿易は、飼料規制の有効な実施後に生まれ、出自牛群が追跡できる牛について許される。

 他の生きた反芻動物とその肉及び製品:これら(肉骨粉は除く)の移動はBSEのために制限されない。他の伝達性海綿状脳症(TSE)コントロールけ計画に基づく生きた反芻動物のための要件は適用することもできる。

 ラクダ類とシカ類及びその肉と製品:BSEのために制限されない。

 すべての月齢の牛からの扁桃、回腸遠位部及びそれを含むすべての商品は、食料、飼料、肥料、化粧品、生物製剤または医療器具を含む医薬品を調整するために貿易されるべきでない。また、30ヵ月以上の牛からの脳、頭蓋、眼、三叉神経節、脊髄、脊柱、背根神経節[脊神経節]及び派生たん白質製品は、食料、飼料、肥料、化粧品、生物製剤または医療器具を含む医薬品を調整するために貿易されるべきでない。

 と畜に先立ち、圧搾空気またはガスを頭蓋の穴に注入する装置でスタンニングを受けた牛、またはピッシングを受けた牛からの血液及び血液製品

 貿易できるかどうかは、2005年5月にOIEで採択される決定ののちに、動物及び人間の保健当局によりさらに考察される。

 獣医生物製剤:いかなる種のために生産される生物製剤も牛のSRMから製造されていないか、個別のリスクアセスメントに従ってきた。

 ペットフード:OIEの基準がないから、牛由来のペットフードは輸入国が行うリスクアセスメントに基づいて貿易できよう。牛以外に由来するペットフードは、輸出国が獣医の保証を提供できれば、安全に貿易できる。

 たん白質を含まない獣脂及びそれから作られる派生品:無制限な輸入及び/または移送を許す(非溶解不純物の最大限レベルが重量で0.15%)。無制限な輸入及び/または移送の条件は、獣脂が最大限0.15%の非溶解不純物を含むことを証明する文書を要求できる。

 関連情報
 OIE:BSEコード改正案、BSEリスク評価基準から飼料規制の有効な執行を削除、05.3.30(03.31訂正版