スペインで初のvCJD発生の疑い

農業情報研究所(WAPIC)

05.7.30

 ロイターの報道によると、スペインではじめての変異型クロイツフェルト・ヤコブ(vCJD、狂牛病=BSEの人間版とされる)の嫌疑が濃厚なケースが29日に報告された(Spain reports first likely human death from mad cow,Reuters,7.29)。

 患者は厳格なコントロールが導入された2000年の狂牛病危機以前に感染したらしい26歳の女性で、既に死亡している。スペイン保健省が、マドリードの病院で行われた検査に基づいてvCJDを原因とする死であると確信、確認のために検体をエジンバラの専門家に送ったと語った。

 感染源・経路として最も可能性が高いのは、神経組織を多く含む牛製品を食べたことで、この犠牲者の場合の潜伏期間は5年から10年だったという。

 もし確認されると、世界全体のvCJD犠牲者は179人、英国以外の犠牲者は23人となる。そのうち、9人は今年になっての発見である(フランス4人、日本、オランダ、アイルランド、ポルトガル、スペイン各1人)。今年は新たな発生国に日本、オランダ、ポルトガル、スペイン(確認されれば)の4ヵ国が加わった。英国以外にも感染者は多数存在し、発症に至る感染者が増える時期に近づいているのだろうか。確かなことは誰も言えないが、不気味な予感を抱かせる傾向ではある。

 なお、この報道によると、スペインでは2000年以来、567[今年7月22日現在までのOIEへの報告件数は572→http://www.oie.int/eng/info/en_esbmonde.htm−農業情報研究所)の狂牛病のケースが報告されている。

 多少の補足をしておこう。

 2000年秋にフランスで狂牛病危機が発生、それが欧州全体に広がるまで、スペインはドイツ、イタリア、ギリシャ、オーストリア、フィンランド、スウェーデンとともに、90年代末以来のEUの再三の警告にもかかわらず、我が国は「未発生国」であると主張、輸入品以外の特定危険部位(SRM)の人間食料・飼料からの排除を一切拒んできた。スペインがSRM除去を始めたのは、危機への対応のためにSRMに関するEUレベルの共通ルールが導入された2000年10月のことである。

 11月には農相理事会が、2001年1月からEU各国に義務付けることが既に決まっていた30ヵ月以上の健康な牛の検査を緊急に導入するという欧州委員会の提案を受け入れた。そのとたんである。11月にスペインで初の狂牛病が発見された。間をおかず、ドイツでも発見された。この年スペインで発見された狂牛病のケースは2件だけだったが、翌01年には82件、02年には127件、03年には167件、04年には137件が報告され、今年も7月22日までに57件が報告されている。ドイツ、イタリア等と同様、「未発生」はズサンなサーベイランスの結果にすぎなかったことが明白になった。

 2000年以前にも狂牛病が潜在していたことは明らかで、しかも国産牛のSRMのコントロールは一切なかった。したがって、「厳格なコントロール」が導入された2000年(10月)以前に感染したらしいというスペイン保健省の説明は納得できる。

 ただし、2000年10月以後もSRMが確実に除去されてきたという保証はない。英国で実施している輸入肉検査でSRMの残存付着がしばしば発見されてきたが、スペインからの輸入肉に発見されるケースは群を抜いて多かった(オランダで初のvCJD確認,05.4.23)。潜伏期間がどのように推定されたのかわかからないので何とも言えないが、2000年以後にSRM入りの肉を食べて感染した可能性も完全には排除できないかもしれない。

 肉を食べること以外の経路による感染もあり得るが、スペイン当局がこれらの可能性を念頭においているのか、調査をしているのか、この報道だけでは全然わからない。