プリオン専門調査会 米・加の飼料規制に抜け穴 リスク不明国と確定も輸入条件と無関係?
(Fsc-Prion Expert Commitee rcognaized the loophole of  feedban in U.S. and Canada)

 農業情報研究所(WAPIC)

05.8.2

 1日、米国産及びカナダ産の牛肉(及び牛内臓)の輸入再開条件を審議している食品安全委員会プリオン専門調査会の会合が開かれた。日本農業新聞によると、”両国の飼料規制には抜け穴があり、飼料を通じて感染が広がる「交差汚染」の可能性があると正式にみなした。次回から、感染牛の発生頭数の具体的な推測を始める予定”という(日本農業新聞、8月2日、「プリオン専門調査会 飼料規制に抜け穴 米国とカナダ 交差汚染の可能性」)。

 もしそうであれば、狂牛病(BSE)にかかわる国際獣疫事務局(OIE)が定める貿易基準に従うかぎり、輸入条件決定の前提となる米国とカナダのリスク・ステータスは、「無視できるリスク」でも、「制御されたリスク」でもなく、「決定されないリスク」であると確定することになる。

 「無視できるリスク」の前提である「狂牛病のケースが存在しなかったか、狂牛病のいかなるケースも輸入されたものであることが証明された」か、「狂牛病の最後の国産のケースが7年以上前に報告された」という条件(第2.3.13.3条の(3)の(a))は明らかに満たされない。かといって、このような場合に「管理されリスク」と評価されるための基本的条件の一つである「反芻動物由来の肉骨粉または獣脂かすが反芻動物に与えられなかったことが、適切なレベルの監督と監査を通して証明できる」(第2.3.13.4条の(3)の(a)及び(b))という条件も「正式に」否定されたからだ。

 残るは「決定されないリスク」だけである。そうであれば、OIEの基準に従うかぎり、最低限の輸入条件も自動的に決まる。これらの輸入条件とは次のようなものだ。

 (1)リスク・ステータスと無関係に貿易できる「脱骨骨格筋」(機械的分離肉は除く)については、それが、「と殺に先立ち、圧搾空気またはガスを頭蓋の穴に注入する器具によるスタンニングまたはピッシングを受けなかった、また生前・死後の検分を受け、狂牛病のケースと疑われるか、狂牛病のケースと確認されなかった、また第2.3.13.13条に掲げる組織(注)による汚染を回避する方法で調整された30ヵ月以下の牛からのものでなければならない(第2.3.13.1条)。

 (注)扁桃と回腸遠位部とそれら由来の蛋白質製品、及び、と殺時に12ヵ月以上であった牛の脳・眼・脊髄・頭蓋・脊髄・脊柱とそれら由来の蛋白質製品。

 (2)その他の生鮮肉と肉製品については、

 @それらが由来する牛が、a)狂牛病のケースと疑われるか、確認されたものではなく、b)肉骨粉または獣脂かすが給餌されなかった、c)生前・死後の検分を受けた、d)と殺に先立ち、圧搾空気またはガスを頭蓋の穴に注入する器具によるスタンニングまたはピッシングを受けなかったこと(第2.3.13.11条の(1))、及び

 Aそれらが、a)第2.3.13.13条に掲げる組織[前の注を参照]、b)脱骨の過程で暴露された神経・リンパ組織、c)12ヵ月齢以上の牛の頭蓋と脊柱からの機械的分離肉を含まないこと、

 そのすべてが生鮮肉と肉製品の汚染を回避する方法で完全に除去されたことを証明する国際獣医証明書の提出(第2.3.13.11条の(2))。

 OIE基準を無視するのでなければ、輸入条件は、これらの最低限の条件を満たさねばならず、プリオン専門調査会の任務は、それで日本国民の安全と安心がどこまで確保できるかを評価、不十分となればさらなる条件(例えば「全頭検査」)を上乗せすべきかどうか、場合によっては禁輸を継続すべきかどうかまで検討することにあろう。次回から始めるという「感染牛の発生頭数の具体的な推測」やその他の検討は、そのためにこそなされるべきものだ。

 ところが、農水省・厚労省は、リスク・ステータスとまったく無関係な輸入条件を諮問した。この条件で輸入される牛肉・内臓のリスクが日本と同等かどうか答えよという。プリオン専門調査会は、少なくとも一部は明らかにOIEの最低限の基準さえ満たさないこの条件(たとえば、諮問された条件では、「決定されないリスク」の国からの脱骨骨格筋以外の生鮮肉・肉製品について要求される最低限の条件、とくに「肉骨粉または獣脂かすが給餌されなかった」ことの証明という条件が満たされないことは明白だ)を、独自のリスク評価で正当化することになるのだろうか。今一番懸念されるのはそのことだ。

 感染牛の発生頭数の推測は、この輸入条件では日本国民の安全と安心の確保に不十分という結論への導火線ともなり得よう。しかし、日本に関するリスク評価と同様、人間の感染リスクの定量評価を通じて、この輸入条件でも日本人の感染リスクは無視できる、あるいは輸入再開による日本人の感染リスクの増加は無視できるという結論を導き出す導火線にもなり得る。

 しかし、現在の米国・カナダの狂牛病に関する情報やデータがこのような計算に対する信頼性をどれほど保証するか、甚だ疑問だ。情報やデータの十分な蓄積がある欧州諸国でさえ、このような評価をリスク管理の決定・変更に直結させることには極めて慎重だ。例えば、英国では、ルール変更によるリスク増加は微小という評価に基づき、30ヵ月以上の牛の食用販売禁止措置を30ヵ月以上の牛の全頭検査の導入で緩和する新措置が提案されている。これに関する食品基準庁(FSA)の研究が開始されたのはは2002年7月だったが、提案が広範な関係者の協議に付されたのは今年3月31日、いつ実現するかはなお確定していない。

 ところが、プリオン専門調査会の吉川座長は、「試算による数字が独り歩きする懸念はある。しかし、数字で示すことで消費者の理解を促すメリットもある」と発言している(プリオン専門調査会 米加産牛肉輸入再開問題で実質審議へー消費者を煙に巻く定量リスク評価は有害無益ー,05.7.16)。強引な定量リスク評価で現在の条件を早々と正当化しようとしているのではないかと疑われる。今後の審議の行方には厳戒が必要だ。