米国農務省 日本の骨なし牛肉輸入再開を認める提案 日本政府は正念場に

農業情報研究所(WAPIC)

05.8.17

 米国農務省動植物衛生検査局(APHIS)が8月16日、日本からのホールカット骨無し牛肉(ひき肉や加工製品ではない骨無し肉)の輸入を特別な条件を付して認める提案を行った(USDA PROPOSES TO AMEND REGULATIONS GOVERNING THE IMPORTATION OF WHOLE CUTS OF BONELESS BEEF FROM JAPAN;http://www.aphis.usda.gov/lpa/news/2005/08/japanbeef_vs.html)。

 これは、日本における狂牛病(BSE)発生を受けて2001年9月に取られた日本の反芻動物と大部分の反芻動物製品の輸入禁止措置を部分的に解除しようとするものである。日本がこれを受け入れれば、米国産牛肉の輸入禁止を続ける根拠を自ら捨て去ることになりかねない。輸入再開の決定を引き延ばし続ける日本政府は正念場に立たされることになる。

 APHISは、この提案がBSEの発見された国との動物製品の安全な貿易に関する国際獣疫事務局(OIE)により開発された国際指針に従うものであると言う。APHISは動物衛生への影響を評価する完全なリスク分析を行い、食品安全検査局(FSIS)は人間の健康に関するリスク評価を行った。これらの評価に基づき、両局は、一定の条件が満たされれば、日本からのホールカット骨無し肉の輸入禁止を続ける必要はないと結論したという。

 これらの条件とは次のようなものだ。

 ・牛肉は、連邦食肉検査法(FMIA)の下で的確と認められる施設で調整されたものであること。これには、特定危険部位(SRM)が枝肉から完全に除去され・可食製品から隔離され・適切な方法で処分されねばならないという条項や、空気注入スタンニングの禁止が含まれる。(APHISは、「このスタンニングはEUでは禁止され、米国では利用されたことがない」と書いている)

 ・牛肉は、と殺に際してピッシングを受けていない牛由来のものである。ここにいうピッシングとは、中枢神経組織をさらに引き裂くために、気絶させられた動物の頭蓋の穴に長く伸びる棒状の道具を挿入することである。

 ・リスク軽減措置が日本政府の権限ある獣医当局が発行するオリジナルな証明書によって証明されねばならない。

 「と殺に先立ち、頭蓋の穴に圧搾空気またはガスを注入する装置でスタンニングの処置、またはピッシングの処置を受けなかった、かつ生前・死後の検分を受け、BSEのケースと疑われなかったか確認されなかった、かつ第2.3.13.13条に掲げる組織[つまりSRM]による汚染を回避する方法で調整された30ヵ月齢以下の牛からの脱骨骨格筋(機械的分離肉は除く)」はBSEリスク・ステータスと無関係に貿易できるとしたOIE新基準(http://www.oie.int/downld/SC/2005/bse_2005.pdf)の第2.3.13.1条の1)のgに準拠したものであることは明らかだ。

 ただし、「生前・死後の検分を受け、BSEのケースと疑われなかったか確認されなかった」という条件をどう確保するかについては、少なくともこのレリースでは特別の言及はない。提案されたルールは8月18日のFederal Registerに掲載されるというからそれまで待たねばならないが、日本が米国産牛肉の輸入条件でこれに拘ることのないように、故意に落としたのだろう。「現在の米国の国内規制及び日本向け輸出プログラム」(日本の厚生労働大臣及び農林水産大臣の「食品健康影響評価」に関する食品安全委員会への諮問)でこの条件を確保できるかどうかが問題にされると、米国はOIEのこの最低限の条件さえ満たせない恐れがある。この問題を事前に封じ込めるために、日本産牛肉輸入再開という「アメ」で、感染牛の肉でもSRMさえ除けば安全という主張の受け入れを日本に強要する腹積もりなのだ。

 レリースは、「研究は牛の限られた数の組織[つまりSRM]だけがBSE感染性を宿すことを示してきた。・・・研究は提案されたルールの下で輸入が許される唯一の製品である牛の筋肉の感染性を実証してこなかった。SRM除去を含む提案された輸入条件は科学的研究に基づくものであり・・・」と強調する。

 同時に、食品安全委員会への諮問は、対象品目を「牛肉」だけではなく、「内臓」にまで広げているが、APHISの提案には「内臓」は含まれないことにも注意せねばならない。APHISは、OIEの新基準 どおり、提案された輸入ルールの対象に内臓は含めていない。しかし、わが国政府は、米国さえ認めるOIE基準におけるこの最低限の条件さえ無視しようとしているわけだ。

 なお、APHISは、この提案に対するコメントを9月19日まで受け付ける。最終的ルールは受け取ったコメントを考慮するという。

 ロイターの報道によると、米国の反主流牧畜農民団体・R-CALFは、日本が牛肉骨粉を他の牛に与えるのを禁止したのがごく最近のことだから、日本の牛肉は米国消費者にとって安全でない、その輸入制限はBSE拡散を防止する主要な防護措置だとして、この提案に反対している(http://today.reuters.com/news/newsArticleSearch.aspx?storyID=271123+16-Aug-2005+RTRS&srch=Japan+beef)。

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