プリオン調査会座長、米BSE頭数を試算、輸入再開に布石?食品安全委は再開後充足率試算

農業情報研究所(WAPIC)

05.9.13

 日本農業新聞によると、12日に開かれた食品安全委員会プリオン専門調査会で吉川泰弘座長が米国の狂牛病(BSE)汚染度は日本より高いとする答申案のたたき台を示した。米国の感染牛の数は年間で日本の5−6倍、輸入対象となる生後20ヵ月齢以下の牛の汚染率も数倍高いと予想しているという。

 当日はこのたたき台についての議論なかったというが、これが通ればリスク管理当局が米国産牛肉の安全性は日本の牛肉と同等と解釈、輸入再開に踏み切ることになりそうだ。5−6倍の違いは大きいように見えるが、03年7月以後生まれの日本の感染牛の数:年間0.4−1.7頭を基にすれば(我が国における牛海綿状脳症(BSE)対策に係る食品健康影響評価;http://www.fsc.go.jp/bse_hyouka_kekka_170609.pdf)、米国の20ヵ月以下の感染牛はその最大6倍としても、2.4−10.2頭にしかならない。

 食肉のプリオン汚染については、その評価の一つの要素である「汚染量」は日本と同等の「検出限界程度」とされるだろうし、日本について微小とされた「特定危険部位(SRM)」除去率で評価される「汚染率」についても、リスクを大きく左右するほどの大きな違いが出るとは考えられない。仮に日本と同様に、「脊髄組織片の残存20%、枝肉洗浄にり10分の1に減る」といった程度の汚染率が適用されれば、10.2頭の感染牛から来るリスクは「極めて微小」ということになろう。「極めて微小」リスクを6倍しても、リスクは「極めて微小」という同じ結果になるだけだ。

 だから、このようなリスク評価に手をつけたが最後、結果は見えていると言ったのだ(プリオン専門調査会 米加産牛肉輸入再開問題で実質審議へ消費者を煙に巻く定量リスク評価は有害無益ー,05.7.8)。プリオン専門調査会がこのような評価そのものをやめないかぎり、諮問通りの条件での輸入再開は決まったようなものだ。

 今日付けの朝日新聞によると、食品安全委員会は12日、米国産牛肉の輸入を再開した場合、禁輸前の輸入量のどれだけを賄えるかを示す「充足率」の試算値を公表したという(「米産牛輸入再開してタンや牛丼用は不足 食品安全委が充足率試算」)。

 この記事は、「輸入再開されるのは、牛海綿状脳症(BSE)の原因物質が蓄積しにくい[”蓄積が余り進んでいないとされる”とすべきところだ]生後20ヵ月齢以下の若い牛。米国で年間に処理される2700万頭の肉用牛[肉用牛だけではない。食肉用に回された乳用牛も含まれる]の20%は、牧場の出生記録や肉質の成熟度で月齢が20ヵ月以下と確認できるが[確認できるとは確認されていない]、米国内での消費分を除くと、日本向けに輸出できるのは処理される牛の10%程度と食品安全委は見ている。さらに、タンやはらみ肉などの内臓部分は肉質での月齢判別が難しいため、輸入可能となる牛は他の部位と比べて半分程度にとどまるという」と述べる。試産結果については、次のような表が掲載されている。 

部位名

用途など

充足率(%)

ヒレ ステーキ 100超
サーロイン ステーキ 100超
肩ロース すき焼き、しゃぶしゃぶ 66
バラ肉(ショートプレート) 牛丼、焼き肉 16
ショートリブ 上カルビ 77
タン 焼き肉 6
下がり肉(ハンギングテンダー) 焼き肉 8
はらみ肉(アウトサイドスカート) 焼き肉 0

 食品安全委のホームページ(http://www.fsc.go.jp/)にはこれは未掲載で、真偽のほどは分からない。しかし、事実とすれば、食品安全委自身が既に諮問通りの条件での輸入再開を見越していることになる。

 記事は、「牛丼チェーンや大手焼き肉店は豪州など米国以外からの牛肉の輸入を拡大しているが、「米国産でないと味覚の質が保てない」という業者も依然として多い。米国から輸入できる肉の量をさらに増やすため、輸入が認められる月齢を30ヵ月齢以下にまで拡大するよう外食業界は求めている」というご丁寧な解説もつけている。食品安全委は、このような要求に応えるための準備のつもりでこんな試算をしたのだろうか。手回しのよいことだ。