スクレイピーの羊の炎症をもつ乳腺に異常プリオン

農業情報研究所(WAPIC)

05.11.4

 スイス・チューリッヒ大学病院の病理学者・Adriano Aguzziが率いる研究チームが炎症を起こした羊の乳腺にスクレイピー(狂牛病=BSE類似の伝達性海綿状脳症)を引き起こす異常プリオン蛋白質を発見した。Nature Medicine誌の最新号に発表されたこの研究について、ネイチャー・ニュースが次のように伝えている。

 Prions suspected in milk,news@nature,11.3;http://www.nature.com/news/2005/051031/full/051031-7.html

 研究者は100万頭以上の羊がいるサルジニア島に渡り、遺伝的にスクレイピーに罹りやすい261頭の羊を分析した。そのうち7頭はスクレイピーに罹っており、4頭は乳腺に炎症をもっていた。これら4頭のすべての乳腺に異常プリオン蛋白質が発見され、他の羊では発見されなかった。ネイチャー・ニュースは、これは感染動物の乳に異常プリオン蛋白質が存在する可能性を示唆すると言う。

 この研究では、乳自体は分析が難しく、異常プリオン蛋白質を発見できなかったが、Adriano Aguzzは発見されると予想している。彼は、「異常プリオン蛋白質が乳中に存在しないということはありそうにない」と言う。バンクーバー・ブリティッシュ・コロンビア大学のプリオン研究者であるNeil Cashmanもこれを恐れており、人々はBSEの牛の乳に異常プリオン蛋白質がないかどうか調べてきたが発見されていない、「しかし、乳腺に炎症をもつBSEの牛については調べてこなかった」と言う。

 もしも乳中に異常プリオン蛋白質が存在するとすれば、異常プリオン蛋白質に汚染された牛肉だけでなく、汚染牛乳の消費により人間がBSEの人間版である変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)になるのではないかという懸念が生じる。Cashman氏は、「これは深刻な問題を提起する」と言う。

 同じ研究グループは、今年初め、炎症を起こしたマウスの膵臓、肝臓、腎臓に異常プリオン蛋白質を発見している(炎症で特定危険部位以外臓器に異常プリオンが蓄積ーBSE対策見直しを迫る新研究)。さらに、先月、腎臓に炎症のあるマウスの尿にも異常プリオン蛋白質が含まれるという研究を発表している(ウクライナでBSE確認の情報)。これらのことが、今回の研究を促したという。

 乳腺の炎症はマエディ・ビスナ(Maedi Visna)と呼ばれるウィルスが引き起こすもので、Aguzziは、このプリオン-ウィルスのコンビネーションが一般的であるとすれば、スクレイピーの伝播と戦う方法に手がかりが得られるかもしれない、「スクレーピーを根絶するためには、多分、先ずはこのウィルスを根絶せねばならないだろう」と言う。

 彼によると、羊の乳腺の異常プリオン蛋白質濃度は脳に比べれて数千分の1にすぎなかった。これは多分明るいニュースにだが、どれほどの異常プリオン蛋白質が人間のvCJDを引き起こすかは分かっていないと言う。

 ともあれ、脳や脊髄など、特定危険部位さえ排除すれば人間(と動物)は安全とする説はますます維持しがたいものとなってきた。感染牛すべてを排除する必要があるが、すべての感染牛が発見できるわけではないから、BSEが疑われなかった牛・BSEと確認されなかった牛でも、特定危険部位以外の様々な臓器に炎症のある牛は排除する追加リスク軽減措置が考慮されるべきであろう。また、炎症を頻繁に引き起こすような動物の生理を無視した(効率的)飼育方法をやめることも、重要なリスク軽減策となるだろう。これまでにも繰り返し言ってきたことだが、要は動物を健康に育てること、これが根本的なリスク軽減策だ。