英国 一層の死後vCJD検査の審査へー公衆衛生リスクは検査拒否権を無視できるほどに高いか

農業情報研究所(WAPIC)

06.3.1

 英国における変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD、狂牛病の人間版)の発生状況を正確に知るための広範な死後検査計画の法的・倫理的審査が始まるようだ。先般報じたように、伝達性海綿状脳症(TSE)に関する政府諮問委員会(SEAC)は、現在までに得られたデータではvCJD発生率の正確な定量評価はできないとして、解剖で収集される広範な組織の検査の実施を勧告したが、それには患者または近親者の同意が必要という大きな法的・倫理的壁があるともしていた(vCJD発生率の正確な定量評価は現状では不可能ー英国海綿状脳症委員会小委員会,06.2.7の)。しかし、ガーディアン紙によると、科学者に法学者・倫理学者が加わり、このような計画の緊急の審査を始めるという。

 Suspected vCJD carriers may be tested after death,Guardian,2.27
 http://www.guardian.co.uk/bse/article/0,,1718622,00.html

 それによると、vCJDに感染しているかもしれないと知らされた5000人(輸血によるvCJD感染をめぐり6,000人に警告ー英国保健省,04.9.22)が死後検査への同意を求められ、生きている人々のために死体を提供することを求められるだろう。どれほどの人がそうとは知らずに感染していたかを知るために、毎年亡くなるその他の3万人の人々の解剖検査も審査の対象となる。死後に移植用臓器を提供した人々の調査も他の選択肢として考えられている。この審査は、公衆衛生上のリスクが死後検査同意の拒否の権利を無視すべきほどに高いかどうかを決定せねばならない。しかし、このような措置は、研究や教育のための臓器や死体の提供への患者の抵抗を高める恐れがあるという。

 SEACは、保健省に対し、英国には現在確認できていない相当数の潜在感染者がいるかもしれないなどと、一層の検査の許可の前の広範な法的・倫理的審査を保健省に求めた。クリス・ヒギンズ議長(インペリアルカレッジ・ロンドン)は、法的・倫理的拘束があるとしても、公衆衛生上のリスクが優先されねばならない場合があると言う。その保健省の首席医務官であるライアム・ドナルドソン卿も、vCJD、特に二次感染をめぐる重大な不確実性が残っていることに同意したという。