日本研究者 WHOのvCJD診断基準見直しを提言 vCJD患者見逃しを防ぐため

農業情報研究所(WAPIC)

06.3.10

  厚生労働省クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)サーベイランス委員会の山田正仁委員長(金沢大教授)が、変異型CJD(vVJD)のケースの見逃しを防ぐために世界保健機関(WHO)のvCJD診断基準を見直すべきことを示唆する論文を英国医学雑誌・ランセットに発表した。

 Masahito Yamada,The first Japanese case of variant Creutzfeldt-Jakob disease showing periodic electroencephalogram,The Lancet 2006; 367:874;DOI:10.1016/S0140-6736(06)68344-X

  これは論文のタイトルが示すとおり、わが国でvCDと確認された唯一の患者の分析に基づくものだ。論文は、患者の病気の進展の様相を次のように詳述する。

 2001年6月(当時48歳):漢字を書くのが難しくなる。

 2001年10月:短気、人柄の変化、記憶障害などの心的症候を示し、脚部の感覚異常、運動失調、痴呆、異常行為がこれに続いた。

 2002年8月:磁気共鳴画像(MRI)が視床の僅かな高信号域を示した。

 2003年1月:運動失調、痴呆、筋過反射の症状が見られる。脳のMRIは視床の相称性高信号域を示した。脳波図(EEG)は徐波化を示したが、周期性同期性放電(PSD)はなかった。脳脊髄液は14-3-3蛋白質に陽性だった。プリオン蛋白質遺伝子に変異はなかった。急速に運動・認知機能が低下した。

 2003年10月:無動性無言、ミオクローヌス(筋の一部、あるいは全体が、突発的に速い付随意収縮をくり返す状態)・錐体路徴候が現れた。脳のMRIは、尾状器官、被殻、視床、大脳皮質に 高信号域を示した。EEGは、PSDの存在を示唆した。 多分孤発型CJDの診断がEEGとMRIの知見から支持された。

 彼は2004年12月に肺炎で亡くなった。解剖はvCJDの特徴を発見した。

 論文は、これに続けて次のように言う。

 病気の持続機関が現在までに報告された大部分のケース(平均14ヵ月)に比べて異常に長いけれども、漸進的な神経精神疾患はvCJDと整合性がある。視床枕徴候と周期性同期性放電の欠如を示す発症後19ヵ月における知見は、共に多分vCJDの基準を満たす。

 しかし、発症後30ヵ月には、PSDが現れ、多分孤発型CJDの基準を満たす他の灰白質核の高信号域の増加に続き、視床枕徴候が消えた。若干のvCJDのケースで視床枕徴候陽性が陽性に転じたという報告はあるものの、以前にはvCJDでのPSDの報告がなかった。このケースは、PSDはvCJDの可能性を排除しないことを示す。かくて、「我々は、vCJDのケースの見逃しを防止するために、WHOのvCJDのケースの定義の修正をサジェストする」と言う。

 この論文は、この患者が、公式には英国で感染したとされているが、フランス、その他のヨーロッパ諸国、日本で感染した可能性も排除できないとしていることも重要だ。

 この患者は、1990年代前半に英国で24日、フランスで3日、当時は狂牛病発生の報告がなかったヨーロッパの他の国で2週間を過ごした。手術・輸血暦はなく、家族にプリオン病の経歴もない。

 論文は、「患者がいつ病原体に曝されたか不明確である。彼が英国を訪問したとき、英国のBSE発生はまだ増加中で、彼が神経組織からのBSE病原体による汚染に結びついたかもしれない機械的回収肉の含む食品を食べたことが確認された。しかし、フランス、その他のヨーロッパの国[複数]、日本での暴露は排除できない。もし彼が英国でBSE病原体に暴露(1回の暴露だけでもvCJDを引き起こすに十分であろう)されたとすれば、我々はそのようなピンポイントの暴露とvCJD発症の間の潜伏期間は11年半になると計算する」と結ぶ。

  関連情報
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