米国 韓国に早急な牛肉輸入規制緩和を要求 日本は年齢制限撤廃をと農務長官

農業情報研究所(WAPIC)

06.11.10

  米国農務省(USDA)のチャック・ランバート・販売及び規制プログラム副次官が9日、米国産牛肉の輸入再開を決めたものの、なお大部分の米国企業に輸出をためらわせている韓国の輸入規制の改変を求め、数週間のうちに訪韓するという声明を出した。

 USDAは先月、韓国の曖昧な牛肉貿易規制が”商業的に存続可能な”貿易環境を壊していると、韓国側が特定危険部位(SRM)と考えるシルバー・スキン(腹部の臓側筋膜)、軟骨、胸骨、骨片をSRMのリストから除外するように求める書簡を韓国政府に送った。副次官は、これらをSRMのリストから外すという韓国政府からの回答が漸く届いたが、骨片と軟骨についての許容レベルを確定する意思表示がないことに非常に失望したと言う。そのために、残った問題を解決するべく、彼自身が数週間のうちに訪韓するということだ。

 STATEMENT BY DEPUTY UNDER SECRETARY OF MARKETING & REGULATORY PROGRAMS CHUCK LAMBERT REGARDING STATUS OF BEEF TRADE WITH SOUTH KOREA,11.9

 韓国は9月初めに米国産牛肉の輸入再開を決定した(韓国の米国産牛肉輸入再開決定、不可避な骨断片混入への対処方法は未解決,06.9.9)。しかし、韓国は、とりわけ米国が混入不可避とする骨片を含む輸入肉は廃棄するか送還するとしてきた。このために、輸出してもすぐに再停止となることを恐れる多くのミートパッカーが輸出をためらってきた。これまでに輸出したのはクリークストーンファーム・プレミアムビーフ社1社にとどまり、先月末に仁川空港に到着した同社の9トン余りの肉もなお検査中である(韓国 輸入再開後第一弾の米国産牛肉が到着 農民団体が強く反発,06.3.31)。

 2003年末の狂牛病(BSE)*発見を受けて米国産牛肉の輸入を停止した日本や韓国、そしてその他国々は次々と輸入再開を決めてきた。カナダ、メキシコ、中国、カリブ海諸国などへの輸出量は回復、以前よりも増えてさえいるが、最大の輸入国であった日本と韓国の輸入量は、今年1月-7月になっても、なお2003年の僅か3%、2%に留まっている。そのために、全体の輸出量もなお半分程度にまでしか回復していない(下図参照。USDA/FASのデータより作成。2006年は8月3日までの数字による)。

 

 家畜・牛肉価格は低迷する一方、干ばつの影響で飼料となる子牛用の草は量が不足し、品質も悪い上に、エタノール生産用需要の急増も手伝って飼料用トウモロコシの価格は急騰している。生産者は高エネルギー、高蛋白の代替飼料を探しているが、いままでと同様な飼養効率は簡単には達成できない。この苦境から脱するために、米国政府は輸入規制緩和を求める韓国や日本への圧力を強めるだろう。

 ジョハンズ農務長官は先週金曜日、米国産牛肉輸入の年齢制限を現在の20ヵ月から30ヵ月に引き上げよという従来からの日本への要求をさらに硬化させ、年齢制限撤廃に向けて圧力をかけると言明したという。

 Japan Times: U.S. To Press Japan To Lift Beef-Age Limit,Cattle Network,11.6
  http://www.cattlenetwork.com/content.asp?contentid=81650

 しかし、それをいうなら、米国は一刻も早く飼料規制強化を実施すべきである。

 なお、最近、輸入された米国産牛肉の貨物の中に、米国農務省発行の衛生証明書に記載されていない胸腺の入った1箱が見つかった。農水省は、「胸腺は特定危険部位ではなく、当該品は20ヶ月齢以下の牛に由来するものであり、適格品リストに掲載すれば対日輸出可能な品目である」(米国産牛肉の混載事例について)であると、単なる手続きミスの問題で済まそうとしているようだ。ただし、胸腺(成牛では消滅する)は日本で焼肉などの材料に使われているが、EU規則(Regulation (EC) No 999/2001)では、高リスク(カテゴリー5)国の6ヵ月以上の牛の胸腺は特定危険部位とされている。通常は特定危険部位とされていない脾臓も同様である。それら自体に危険性がまったくないとは言い切れないということだろう。

 *この際言っておくが、「狂牛病」をすべて「BSE」に置き換えるのは、社会・経済的、さらには文明論的背景(→クロード・レヴィ・ストロース川田順造訳 「狂牛病の教訓―人類が抱える肉食という病理」 『中央公論』 20014月号さえもつこの病気に関する言論を獣医学者・科学者の独占的支配下に置こうとするものである。