英国 BSE検査誤魔化しが横行? 検査官労組が告発 検査官いじめも米国なみ

農業情報研究所(WAPIC)

06.11.21

 英国のと畜場で狂牛病(BSE)検査の誤魔化しが横行しているらしい。これを摘発する検査官も脅迫されている。英国におけるvCJDは発生は激減傾向を示しているが(オランダで二人目のvCJD死者 なお二人に疑い,06.11.17)、この問題を取り上げた20日付のインディペンデント紙の記事(Abattoir fraud could bring BSE back to Britain,Independent,11.20)は、と畜場の検査誤魔化しは全国的に広がっており、vCJDが英国にカム・バックする恐れもあると言う。

 英国は、人間の変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)感染予防措置として、1996年7月以来、30ヵ月齢以上の牛を食用に利用することを禁じてきた(30ヵ月齢以上=OTMルール)。vCJD予防のために30ヵ月齢以上の牛の肉から骨を完全の除去すべきだという伝達性海綿状脳症委員会(SEAC)の勧告が実行不能と判断したためだ。しかし、その後BSE発生数が大きく減少したことを受けた食品基準庁(FSA)の昨年9月の勧告に従い、政府は11月7日の30ヵ月齢以上の牛の義務的検査の導入と引き換えに、OTMルールを廃止した。

 ところが、この記事によると、公共部門労組・Unisonに所属する食肉検査官が、と畜場がこの検査を誤魔化していると告発している。今月初め、30ヵ月齢より若い牛として検査をせずに食肉処理した牛が54ヵ月齢だったことが発覚、北アイルランドの食肉企業が多くの食肉製品のリコールに追い込まれる事件があった(FSA:Dunbia NI recalls meat products,06.11.10)。これは誤魔化しというより、月齢確認の単純ミスかもしれない。しかし、検査官が指摘する誤魔化しとは、検査サンプルの故意の摩り替えということだ。

 新たなルールでは、30ヵ月齢以上の牛すべての脳幹が検査されねばならない。ところが、採取の際に脳幹が損傷を受け、検査に不適となることがある。この場合には、この牛のと体とこれに接触した恐れのあると体が廃棄されねばならない。これにより、業者は多大の損失を蒙ることになる。そこで、サンプルを別の若い牛のサンプルに摩り替えるというわけだ。

 検査官は、二つのと畜場でのこのような事例が見つけたが、これは氷山の一角にすぎないと信じている。現在、DNA検査で2頭の牛のサンプルが30ヵ月齢以上の牛のものでない可能性が示された北アイルランドの第三のケースも調査中という。

 ただ、検査官はと畜場の具体名は明らかにしていない。と畜場マネージャーは、”職務を果たす検査官を常時脅迫しようとしている”からだという。米国のと畜・食肉処理工場と同じようなことがここでも常態になっているようだ。

 検査官は、環境食料農村省(DEFRA)は違反取締り手続きを強化してきたが、未だ不十分だ、現在、10に1つの大規模と畜場が監視されているだけだが、検査官はすべての脳幹採取の監督を許されるべきだと言う。しかし、DEFRAの報道官は、今までのところ、労組は違反の主張を支持するいかなる証拠も出さなかったと言っている。

 BSE問題はもう忘れよう。米国をはじめ、世界の多くの国で広がり、強まるこの風潮は、元祖・英国でも例外ではないようだ。真面目に仕事をしようとする検査官の肩身も狭くなる一方だ。