種も仕掛けも尽き果てた 米国産牛肉輸入条件緩和でプリオン専門調査会座長

農業情報研究所(WAPIC)

07.6.18

  予想される米国産牛肉輸入条件緩和の是非を問う諮問を前に、食品安全委員会プリオン専門調査会の吉川泰弘座長が、「政治的な動きと科学の板挟みになった苦しい胸の内を明かした」そうである。東京新聞の山川剛史記者が同紙本日(6月18日)付の「特報」記事(20-21面)で伝える。

 同記者の取材に対する吉川座長の応答は次のとおりだ。

 「米国の背景リスクが変わっていないのに、輸入条件を緩めても安全かと諮問されても、大丈夫ですと答えるのは難しい。問う方も問われる方も論理破綻する」

 (特に)「飼料規制が強化されなければ、BSEの病原体は国内で循環し続けることになる。米国が業界の反対で(規制強化)をやらなかったことは、大きなマイナス材料だ。この懸念はOIEもわざわざ注釈を付けて指摘している」

 いずれも筆者(北林)が繰り返し指摘してきたことだ。その上、座長は、輸入再開に当たっての答申が米国にサーベイランスの強化を求めているのに、逆に検査頭数も大幅に減らしたことも問題視、「日本は検査も飼料規制も徹底しBSE撲滅への道がきっちり読めるが、米国は読み切れない。こうした状況が続くと、日米のBSEシナリオはどんどん離れていく」と語ったという。

 輸入再開に当たっての諮問に際しては、国民には手品のようにしか見えない作文で、20ヵ月以下の牛の特定危険部位を除去した米国産牛肉と国産牛肉の安全性は同等と判断できるという結論を正当化した。そのときと「背景リスク」はまったく変わっていない(あるいは高まっている可能性さえある⇒OIE 米国は管理されたBSEリスク国 輸入条件緩和を許す食品安全委の新”マジック”が見もの,07.5.23)のに輸入条件緩和を認めるとなると、前回のリスク評価が結論が先にありき、どんな結論でも正当化できるような手品でしかなかったことが明白になってしまう。

 それは科学者としての沽券にかかわる。だが、それを隠し通すことを可能にするような手品の種も仕掛けも使い果たしたということのようだ。これでは、諮問のあり方次第では、門前払いさえあり得ることになる。

 それでも、日米関係の維持を考えれば、政府は輸入条件を緩和しないわけにはいかない。科学的リスク評価に基づくリスク管理という日本の国家食品安全システムが、少なくともBSEに関しては虚構にすぎないことが誰の目にも明らかになる。

  なお、この記事の末尾には筆者も登場していることを付記しておく。