OIE 米国は管理されたBSEリスク国 輸入条件緩和を許す食品安全委の新”マジック”が見もの

農業情報研究所(WAPIC)

07.5.23

 パリで開催中の国際獣疫事務局(OIE)年次総会が22日、米国、カナダ、スイス、ブラジル、チリ、台湾の6ヵ国を”管理(コントロール)されたBSEリスク”国と認める科学委員会の報告を採択した。

 国際獣疫事務局(OIE)による加盟国のBSEステータス認定について(農水省)、07.5.23

 これを受け、ジョハンズ米農務長官は、これは、「米国に設けられている科学に基づくリスク軽減措置が動物の健康と食品安全性を有効に保護している」ことを国際的に認められた基準機関が強く支持するものだという声明を出した。

 STATEMENT BY SECRETARY MIKE JOHANNS REGARDING U.S. CLASSIFICATION BY OIE,05.5.22
 http://www.usda.gov/wps/portal/!ut/p/_s.7_0_A/7_0_1OB?contentidonly=true&contentid=2007/05/0149.xml

 しかし、これは、少なくとも米国とカナダに関しては、OIEが「動物の健康と食品安全性」を護る科学機関としての性格を大きく侵食され、貿易促進を優先する政治的機関に堕しつつあることを立証するものにすぎない(→カナダ産牛11例目のBSE 交叉汚染で新たな感染が続く国が「管理されたリスク」国?,07.5.4)。 小沢義博氏に「金メダル」を授与するようなOIEの科学性など、誰が信用するものか(デマゴギーで米国産牛肉輸入再開を促す新聞広告 小沢氏は「金メダル」を返上すべきだ,05.7.20*

 *彼の所論がいかに信用ならないものか、山内一也、品川森一の両先生が徹底的 に暴いている。
  ⇒人獣共通感染症連続講座(山内一也)(第175回) 2006.03.19:小澤義博氏の論説「牛海綿状脳症(BSE):欧州と日本の現状分析と対策」への反論
  
http://www.anex.med.tokushima-u.ac.jp/topics/zoonoses/zoonoses07-175.html

 ともあれ、これにより、米国が、20ヵ月以下の牛の肉に限るという日本の米国産牛肉輸入条件の緩和はもとより、多くはこの月齢条件を30ヵ月以下とする他の国々の輸入条件の緩和に向けた圧力を一段と強めることになるのは間違いない。ジョハンズ声明は、次のように言う。

 「我々は、この国際的確認を、すべての種類(full spectrum)の米国の牛と牛肉製品の輸出市場を再開するように貿易相手国に対して要請するために使う。貿易相手国には、このコントロールされたリスクの決定を反映するように輸入要件を修正し・市場アクセスを拡大する期限を約束するという我々の期待を通知している。我々は、諸国がそれぞれの輸入要件を国際基準に合せる手段を迅速に講じるように、あらゆる手段を利用する」

 農水省、厚労省は今月14日から約2週間にわたる米国食肉工場の査察を実施している。これにより、対日輸出条件が守られていることが確認されれば、輸入再開後の対日輸出プログラム遵守状況の検証期間後に輸入条件見直しを始めるという輸入再開時の合意に基づき、できるかぎり早い時期の輸入条件緩和協議が始まるだろう。そして、政府はそこで決まった条件で、日本産牛肉と米国産牛肉の安全性、あるいはリスクは”同等”でしょうかと食品安全委員会に諮問することになるのだろう。 この条件はどうなるかだが、米国を管理されたリスク国と認めることに日本も賛成した(この決定は”全会一致”での決定である)のだから、月齢に関しては30ヵ月以下どころか、月齢制限なしとなっても日本政府は文句を言う理由がない。

 食品安全委員会の対応が見ものだ。20ヵ月齢以下の条件での諮問に答えたときと、米国産牛肉をめぐる状況には基本的には変化がない。豚・鶏飼料とペットフードに肉骨粉が使用され、その原料には特定危険部位や死亡牛などの高リスク牛もが含まれているという状況にはまったく変わりはない。トレーサビリティーも未確立の事情に変わりはなく、仮にBSE 発生が確認されても、すべての擬似患畜を見つけ出し、廃棄し、あるいは移動を制限することもできない。リスクは微小という評価を補強したサーベイランスの結果は信用できないとした農務省監査局の監査結果も生きたままだ。カナダからのBSE侵入リスクについては、却って高く評価する必要があるかもしれない。

 20ヵ月以下の条件での評価では、「BSEリスクの科学的同等性の評価は困難」としながらも、輸入条件が守られるかぎり、そのような米国産牛肉等とわが国の全月齢の牛の牛肉等のリスクの差は「非常に小さい」と結論された。当時と比べると、肉骨粉全面禁止後6年半を経過したのちの日本のBSEリスクは確かに減っているだろう。米国のBSEリスクとの差の科学的評価はまたも困難とされるのだろうが、それが広がっていることだけは確かだろう。そして、牛肉等のリスクは月齢に応じて高まり、日本では検査で一定数の潜伏期感染牛が排除されるのに、米国ではそれがないことを考えれば、牛肉等の日米リスク差は広がることはあっても、同じとか、縮まっていることはありえないだろう。

 一部には、日本で発見された21ヵ月齢、23ヵ月齢の牛の脳の感染性が確認されなかったという実験結果から、20ヵ月以下という輸入条件の根拠が薄弱になったという見方がある(日本弱齢牛BSEに感染性なし?米国産牛肉輸入条件緩和に弾みと朝日が早とちり,07.5.9)。しかし、この条件は、これらの牛の感染性とはまったく無関係に、現在のBSE検査の検出限界とのかかわりでのみ決められたものだ。米国はどうしてもBSEスクリーニング検査を受け入れない。しかし、日本はこれをやめるわけにはかない。それでも輸入再開は政治的至上命令だ。そこで、現在のBSE検査で感染が発見された最低月齢よりも若い、つまり20ヵ月齢よりも若い牛ならば検査をしても感染の発見は難しく、検査をしてもしなくてもリスクに差はでない(検査はリスク軽減策としての意味を持たない)と強引に結論づけたにすぎない。21ヵ月齢でもBSEが発見されたという事実そのものをなかったことにしないかぎり、20ヵ月以下という条件を変える筋合いはまったくない。

 ともあれ、これは検査の要・不要にかかわる問題であり、この月齢制限を外すということは、現実には21ヵ月以上のすべての牛の検査を免除するということにほかならない。21ヵ月、23ヵ月の2例に感染性が確認できなかったから輸入条件としての月齢制限を見直さねばならないという議論が的外れであることは明白だ。

 それにもかからず、月齢条件の30ヵ月までの引き上げ、あるいはその撤廃という輸入条件緩和案が諮問されれば、リスク評価機関は、リスク管理機関にそのような条件緩和の余地を与えないような答申 を出すことはできないだろう。このような諮問が出るときには、もはや後戻りができないような政治的決定がなされており、この決定を覆すような答申は政治的に不可能になっている からだ。これは既に経験済みだ。食品安全委員会の対応が”見もの”というのは、20ヵ月齢以下の条件での答申と同様な結論を導くために、またそれを説得力あるものにするために、どんな新たな”マジック”が使われるのかということにのみかかわる。