カナダ BSE飼料規制強化=SRM完全廃棄の実施へ BSEリスクを米国に移転の結果に

農業情報研究所(WAPIC)

07.7.12

   ペットフードを含むあらゆる動物飼料や肥料からも特定危険部位(SRM)を排除するカナダの強化されたBSE飼料規制が今日(12日)から実施される。今後、SRM*の扱い・輸送・処分に関係するあらゆる者**は、SRMとそれを含む屠体を分離し、農場から埋め立て場または焼却場まで、漏れ出ることがないように運び、廃棄することを義務づけられる。

 *全年齢の牛の回腸遠位部、30ヵ月齢以上の牛の頭蓋・脳・三叉神経節・眼・扁桃・脊髄・背根(脊髄)神経節

 **牛生産者、と畜業者、レンダリング業者、肥料・ペットフード・飼料製造者・廃棄物管理施設・輸送業者など。

 カナダ食品検査局(CFIA)は、このような飼料規制強化の方針を発表した昨年6月26日以来、8000万jの連邦予算を投じて、これら関係者によるその実施に向けた準備を支援してきた。それにもかかわらず、関係者の不満は大きい。カナダ牛生産者協会は、新たな規制によって増加するコストを相殺するために、さらに5000万j必要だと言う。

 Costly new mad-cow rules a 'fiasco,' slaughterhouses complain,canada.com,7.9
 http://www.canada.com/topics/news/national/story.html?id=0f4e0fed-bd21-4762-babf-37cd5b597edb&k=42095

 それだけではない。新ルールのコストと面倒な手続きを避けようとするカナダの牛生産者は、牛をこんな厳しい規制のない米国でと畜、そこで切り分けられ、ラップされた肉を輸入してステーキ、リブ、ハンバーガーなどとして販売することを考えているという。

 Regulatory 'loophole' could drive cattle herds to U.S. for slaughter,canada.com,7.11

 カナダは、30ヵ月未満の牛ならば米国に送ることができる。毎年100万頭ほどのカナダ牛が米国で合法的にと畜されている。他方、米国では、SRMは人間が食べる肉からは排除されねばならないが、肥料や豚・鶏飼料、ペットフードへの利用は禁止されていないし、今後も禁止されることはないだろう(米FDA 死亡牛の脳・脊髄の飼料利用禁止案を撤回へ 経済コストが高すぎる,06.9.13)。

 従って、牛を米国でと畜すれば、SRM廃棄のためのコストや面倒な手続きは一切省くことができ、かつSRMを除去されたカナダ国内で販売できる肉を買い戻せるというわけだ。米国でと畜されるカナダ産牛は、カナダの飼料規制強化によって、ますます増えることになるだろう。CFIAの飼料規制タスクホースも、SRMなしの製品が戻ってくる限り、何の問題もないと言っているという。

 しかし、カナダでは、今までに10頭(米国ワシントン州で発見されたものも含めると11頭)にBSEが確認されており、CFIAも今後のBSE発生の可能性を否定しない。だからこそ、BSE根絶を早めるための今回の規制強化に踏み切ったわけだ。ところが、これでは、カナダ国内から排除されるBSE感染源を米国に移転させるだけだ。北米全体としてみれば、BSE根絶を早める効果は大きく減殺されることになるだろう。

 大量の、そして今後ますます増えるであろうカナダ産牛の牛のSRMが米国の豚・鶏飼料やペットフードに使われる。米国のBSEリスクを知るデータは不足している。しかし、少なくとも、米国にBSEリスクが存在し、カナダの飼料規制強化で、少なくとも当面、それが高まることだけは明らかである。米国のBSE発生率は極度に低いから現行”フィードバン”だけで米国内でのBSE拡散は十分に防止できるとする米国の主張には何の説得力もない。