欧州裁判所 緩和された羊・山羊からのBSE感染防止ルールの執行停止を命令

農業情報研究所(WAPIC)

07.10.2

 第一審欧州司法裁判所の急速審理裁判官が9月28日、伝達性海綿状脳症(TSE)の羊と山羊の完全廃棄を定めるEUルールの最近の緩和は欧州市場に狂牛病(BSE)感染肉にもたらす恐れがあるとして、この新ルールの即時執行停止を欧州委員会に命じた。

 The Court of Justice Press Release:Nº 67/2007 : 28 September 2007
  http://www.curia.europa.eu/fr/actu/communiques/cp07/aff/cp070067fr.pdf

  EUのこの新ルールは、EUのBSE基本法ともいうべき「一定のTSEの予防・コントロール・根絶に関する」2001年規則(No.999/2001)の一部付属書を修正する今年(2007年)6月26日の規則(No.727/2007、官報掲載日・6月27日から20日後の7月17日に発効)により導入されたものである。それは、羊や山羊のTSEに紛れ込んでいるBSEは人間には感染しないとされるスクレイピーと区別できるようになった検査で排除できるとして、迅速検査でTSEが発見された羊・山羊群の完全殺処分の代わりに、一定の監視下での経営維持、あるいは人間消費用のと畜を許す権限を加盟国に与えたものだ。

 これに対し、フランス政府は、新規則が発効する7月17日、リスクの評価と管理に関する”予防原則”に違反すると、これら条項の廃棄を目指す訴訟を起こした。同時に、本格審理の結果を待たず、その執行停止を求める急速審理も求めた。9月28日の急速審理裁判官の命令は、この求めに応えたものだ。

 急速審理裁判官は、フランス食品衛生安全機関(AFSSA)と欧州食品安全機関(EFSA)の意見に基づき、科学的認識の一定の進歩にもかかわらず、BSE以外の動物起源のTSE病原体の人間への伝達の可能性や、BSEとスクレイピーを区別する検査の信頼度に関する科学的不確実性は現実に残っていると判断した。

 欧州委員会の採択した衛生警察措置を検討したのち、新たなシステムにおいては発見されなかったTSE感染動物が人間に消費されると予見できるというフランス政府の主張が根拠を欠くようには見えないと推定する。

 そのうえで、新規則が発効した7月17日以来、BSEを含むTSE感染動物由来の肉や製品が人間消費用に流通に入った可能性があり、新規則発効で人間の健康リスクは増したと結論、重大にして取り返しのつかない健康被害をもたらすという深刻なリスクを考えれば、緊急の執行停止が妥当と言う。

 そして、この決定のもう一つの条件である利益の均衡に関しては、公衆衛生保護に関連した要求が経済的考慮に優先することに”議論の余地はない”(incontestable)とする。

 このような判断は、”新たな科学的認識”の結果として次々とBSE関連規制を緩める諸国政府 (従ってまた、それらが構成するOIE)への、賞賛すべき、新鮮な警告だ。まさに”科学的認識の一定の進歩”にもかかわらず、BSE、あるいはTSEにかかわる”科学的不確実性”は却って増しているくらいだ。

 経済的利益のためにと畜牛のBSE検査を拒否、特定危険部位の利用も続ける米国は論外として、BSEに関する規制緩和の機会を虎視眈々と伺う欧州委員会は、この決定をどう受け止めるのだろうか。本格審理の行方次第では、狂牛病措置改変に向けたロードマップ(欧州委、EUの狂牛病措置改変に向けてのロードマップを採択,05.7.18)にも狂いが生じかねない。