VV型英国女性が非典型CJD死 vCJD第二波の予兆? 研究者は”パニックには及ばず”

農業情報研究所(WAPIC)

08.1.9

 最近発表された英国チームの研究が、英国人の10%ほどを占めるプリオン蛋白質遺伝子コドン129がバリン・ホモ(VV)の39歳の英国女性が非典型的孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)で死亡したことを明らかにした。

 解剖学的所見では、この患者は非典型的CJDで、小脳組織の異常プリオン蛋白質の分子的分析では、BSEの人間版とされるvCJDに見られるのと類似の新たな異常プリオン蛋白質であることが示された。ただし、典型的なvCJDのパターンとは区別される。この結果を受け、研究者は、この患者に見られるプリオン株を特徴づけ、またBSEとの病因学的関係を調べるために、一層の調査が必要だとしている。また、このケースは、プリオン病の分子的分析の重要性を示すと言う。

 Creutzfeldt-Jakob Disease, Prion Protein Gene Codon 129VV, and a Novel PrPSc Type in a Young British Woman,Archives of Neurology,64-12,2007
 http://archneur.ama-assn.org/cgi/content/short/64/12/1780

 ところで、New Scientistの記事が、「狂牛病の人間版の新たな波が今にもイギリスに押し寄せようとしているのではないか」 の書き出しでこの研究発表を伝えたことから、人々の恐怖を煽る怖れが広がった。

 Mysterious death reignites vCJD fears,NewScientist.com,08.1.2
  http://www.newscientist.com/article/mg19726370.400-mysterious-death-reignites-vcjd-fears.html

 今までのvCJD死者は、すべてプリオン蛋白質遺伝子コドン129がメチオニン・ホモ(MM)の遺伝子型だった。しかし、VV型のマウスもvCJDに感染し、その脳の病変分布はMM型の感染とは異なるという実験結果が既にある(BSEの人間版はvCJDに限られない 遺伝子型で異なる型,04.11.12)。また、解剖で収集された匿名虫垂サンプルの遡及的調査で、VV型の人もvCJDに感染し得ることが示されており、研究者は、VV型のvCJD感染者はMM型の感染者に比べて潜伏期間が長い可能性があるとも見てきた(VV型の人のvCJD感染確認 感染者数は予想以上、人→人感染のリスクも高まる,06.5.19)。それは遅れてやってくるvCJDの第二波があり得ることを意味する。従って、New Scientistの記事にもまったく根拠がないわけではない。

 ただ、BBC Newsによると、研究者や政府アドバイザーは、こうした恐れの打ち消しに懸命なようだ。

 CJD death 'is no cause for panic',BBC News,1.3
 http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/7167866.stm

 この研究を率いたUniversity College Londonのサイモン・ミード博士は、これがBSE汚染肉に曝された他のVV保菌者間におけるケースの増加の始まりを告げるものかどうかを言うのは時期尚早だ、これが実際にvCJDなのか、それとも想定以上に若い患者における”孤発性”CJDの一例にすぎないのか、確かなことは言えないと言う。「それはVVの人に感染するvCJDの新たなタイプであり得るが、これを確認するためにはもっと多くのケースを診る必要がある」ということだ。

 また、海綿状脳症政府諮問委員会(SEAC)のクリス・ヒギンズ委員長も、これはMM型の人も、VV型の人も罹る孤発性CJDの一ケースにすぎないかもしれず、あわてふためくには及ばない、「VVマウスがvCJDに感染することは分かっているが、MMマウスよりもずっと感染しにくい、だから感染者が増加することがあったとしてさえ、大きく増加することはないだろう」と言う。