VV型の人のvCJD感染確認 感染者数は予想以上、人→人感染のリスクも高まる

農業情報研究所(WAPIC)

06.5.19

 英国クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)サーベイランスユニットのジェームズ・アイロンサイド教授等の研究チームが、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD、狂牛病の人間版とされる)の検査で陽性となった虫垂のサンプルから抽出されたDNAのコドン129プリオン蛋白質遺伝子を分析、三つのサンプルのうちの適切な分析に利用できた二つのサンプルがバリン同型(VV型、英国人の10%ほどがこの遺伝子型)だったという論文を発表した。

  James W Ironside et al,Variant Creutzfeldt-Jakob disease: prion protein genotype analysis of positive appendix tissue samples from a retrospective prevalence study,BMJ,2006;332:1186-1188 (20 May), doi:10.1136/bmj.38804.511644.55
  Abstract:http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/abstract/332/7551/1186

 これまで確認されているvCJD患者の遺伝子型はすべて、メチオニン同型の遺伝子型(MM型)であった(英国人の40%がこの遺伝子型とされる)。しかし、04年には輸血を通してvCJDに感染したと見られる英国の第二例の患者が異型遺伝子型(MV型)であることが発見され(発症例皆無の遺伝子型患者にvCJD潜伏輸血感染発見、高まる人→人感染のリスク,04.8.7)、MV型の人もvCJDに感染する可能性が 確認されている。新たな発見ですべての遺伝子型の人がvCJDに感染する可能性が確認されたわけだ。VV型でも感染する可能性はマウスの実験では確認されていたが(BSEの人間版はvCJDに限られない 遺伝子型で異なる型,04.11.12)、実際に人の感染が確認されたのはこれが初めてだ。

 研究者は、VV型のvCJD感染者は、MM型の感染者に比べて潜伏期間が長い可能性があると言う。これは、vCJD感染者数がこれまでに発見されたvCJD患者数から予測された数字を大きく上回る可能性を示唆する。これまでに発見された患者数を基にするこれまでのvCJD発生数予測は大きく修正されねばならないだろう。また、わが国プリオン専門調査会が行ったそれに基づくvCJDリスク評価はほとんど信頼できないものとなるだろう。

 それだけではない。vCJDを牛から人に伝達する病気としてのみ見る考え方も根本的に見直されねばならない。研究者は、長い潜伏期の間の供血やこれらの潜在感染者に使用された汚染手術具から感染の水平的拡散が起きる可能性があると言う。輸血を通してのヒト→ヒト感染の例は既に報告されており、これを防ぐための対策も強化されてきた。しかし、アイロンサイド教授は、最悪のシナリオでは、我々はvCJDが自立的(self-sustaining.)になる状況に入る可能性があると言う。

 我々は、vCJD感染のリスクがあるからといって、輸血や手術・検査を止めるわけにはいかない。臓器移植も増え続けるだろう。潜在感染者の範囲が広がるほどにこのリスクは高まる。このリスクを軽減するための対策の有効性も減るだろう。狂牛病発生とは無関係な人間の病気としてvCJDが”自立”するチャンスが増える。

 専門家、行政、マスコミ、人々は事の重大性に気づくべきだ。鳥インフルエンザが人間の病気ー新型インフルエンザーとして”自立”して、世界的に大流行するかもしれないという”理論的”可能性については、大々的に警報が鳴らされている。しかし、既に”現実的”可能性となっており、”現実”となっているかもしれないvCJDの”自立病”化に関する危機意識は、一部専門家の間にはあるかもしれないが、まったく一般化していない。だが、vCJDは、今のところいかなる治療法もない上に、潜伏期間が長くインフルエンザ以上に封じ込めが難しい故に、もし”自立病”となれば新型インフルエンザ以上に危険な病気だ。 永遠に退治できないかもしれない。

 このことは、牛→ヒト感染のリスクを一層減らす厳格な狂牛病対策も要請する。牛肉を食べることによるvCJD感染のリスクは交通事故のリスクよりも小さいなどいう認識は一掃される必要がある。既に手遅れかもしれないが、ヒト→ヒト感染のリスクの増大を見据えた一層厳格なリスク評価に基づく既存の狂牛病対策の見直しが要請されよう。少なくとも、狂牛病のリスクが微小であると人々に思い込ませるのに大いに貢献した英国のvCJD発生予測に基づいて日本での患者数は1人未満としたプリオン専門調査会の推定(04年9月の日本の狂牛病対策に関する中間とりまとめ)は、即刻撤回され、見直されねばならない。

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Tests raise fear of more CJD deaths,Guardian Unlimited ,5.19
 
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