カナダで新たなBSE 中国餃子で大騒ぎ、へたり牛肉には知らん顔の食品安全意識とは

農業情報研究所(WAPIC)

08.2.27

  カナダ食品検査局(CFIA)が2月26日、アルバータの6歳の乳牛に狂牛病(BSE)を確認したと発表した。カナダ12例目、米国ワシントン州で確認されたアルバータ生まれのケースも含めると13例目となる。

 BSE Case Confirmed in Alberta,CFIA,08.2.26
 http://www.inspection.gc.ca/english/anima/heasan/disemala/bseesb/ab2008/12notavie.shtml

 年齢からすると生まれは2001-02年、1997年のフィードバン(一定の哺乳動物由来肉骨粉の反芻動物への給与の禁止)から4−5年を経て、なお感染源が残っていたことになる。フィードバン以後生まれが確かな確認BSE牛は7例となる。

 カナダ生まれの牛の狂牛病確認例

 

確認年月

発生地域(出生地域)

畜種

年齢または出生年

1 2003.05

サスカチェワン州・アルバータ州隣接地域

アンガス

8歳(1995年)

2 2003.12 米国ワシントン州(アルバータ州) ホルスタイン

1997年

3  2005.01  アルバータ州 ホルスタイン

1996年

4 2005.01 アルバータ州 肉用牛・シャロレー

1998年

5 2006.01 アルバータ州 交雑種

6歳(2000年)

6 2006.04 ブリティッシュ・コロンビア州 乳牛

6歳(2000年)

7 2006.07 マニトバ州 交雑種

15歳

8 2006.07 アルバータ州 乳牛

50ヵ月齢(2002年)

9 2006.08 アルバータ州 肉用牛

8-10歳

10 2007.02 アルバータ州 非去勢雄牛

79ヵ月齢(2000年)

11 2007.05 ブリティッシュ・コロンビア州 乳牛

66ヵ月齢(2001年)

12 2007.12 アルバータ州 肉用牛 13歳(1994年頃?)
13 2008.02 アルバータ州 乳用牛

6歳(2002年頃?)

(このほか、1993年にアルバータ州で英国からの輸入牛に狂牛病が確認されている)

 しかし、FSIAは、感染牛の年齢と居場所は以前に発見されたケースと同じ範囲内にあり、このケースは国際獣疫事務局(OIE)が承認した”管理されたリスク国”というカナダのBSEリスクステータスを損なうものではないと言う。要するに、言いたいことは、「このステータスはカナダのサーベイランス、リスク軽減・根絶措置の有効性を明確に認めるものである。科学に基づき、このケースがカナダの現在の牛と牛肉の国際市場へのアクセスに影響を与えるとは予想されない」ということだ。

 ただ、高リスクの牛と地域を標的とするサーベイランスだけですべての感染牛を排除できるわけではない。CFIA発表が言うように、「少数のBSEのケースが断続的に発見されるのは十分に予想される」とすれば、見逃される感染牛が十分にあり得ると言うこともできる。故意でなくても症状が見逃される場合があり、無症状の感染牛もあるだろうからである。

 それでも、「カナダの動物と人間の健康のセーフガードは、有害であり得る牛の組織[特定危険部位]が人間の食料と動物の飼料に入るのを妨げている」と強調する。しかし、米国で大量の牛肉リコールを引き起こしたような”ダウナーカウ”(適訳とはいえないが、日本では”へたり牛”と呼ばれる)の食用と畜が横行しているとすれば、このセーフガードにも穴が開く。どうなのだろうか。

 カナダについてはともかく、カナダでこれだけ発見されるのだから、まともなサーベイランスをしていればBSEが発見されないはずがない米国では、このようなやり方が”横行”しているかもしれないという疑いを棄てきることができない(米国食肉処理の現場、時給8ドルで雇われ、シャツの下のピンホールカメラで撮影,08.2.21)。BSEに感染している疑いの濃いダウナーカウの肉が日本に入ってくる可能性も、現状では否定しきれない。

 しかし、日本政府は他の施設で同様なことが起きているかもしれないと疑いもせず、リコール事件を起こした施設は日本向け輸出施設ではないと言うだけで事を済ましている。米国農務省はこの事件が孤発事件であったかどうかの調査に乗り出し、シェーファー米農務長官も、リコール事件が米国はなぜ安全な肉を供給できないのかと外国に問われ、日本や韓国への米国牛肉輸出交渉が挫折するかもしれないと恐れているにもかかわらず、である。 

 LIVE FROM USDA: Agency To Determine Soon If Hallmark Was Isolated Incident,Cattle Network,2.22
 http://www.cattlenetwork.com/beef_cattle_hot_topics_Content.asp?ContentID=199838
 Beef Recall Impacts Trade Negotiations(AP),The Washington Post,2.22
  http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/02/22/AR2008022202320.html

 マスコミも、消費者も、中国冷凍餃子事件で大騒ぎするだけ、この問題からは完全に目を逸らしている。(筆者の知るかぎりでは)僅かに金子勝氏が、「米国内でへたり牛に肉を給食に使用していたことを全米人道協会が暴露して大騒ぎになっているのに[政府は]知らん顔だ」、中国の餃子は叩いて、「アメリカには言いなりだ」と憤慨するのみだ(週刊スパ、08年3月4日号、30頁)。日本人の食品安全意識、どこか狂っているようだ。