米国食肉処理の現場、時給8ドルで雇われ、シャツの下のピンホールカメラで撮影

農業情報研究所(WAPIC)

08.2.21

  米国史上最大の牛肉リコールにつながった食肉処理工場での動物虐待とダウナーカウ食肉処理(米国で史上最大の牛肉製品リコール ダウナーカウと畜のBSE規制違反,08.2.18)の実態を映し出すビデオを撮ったホールマーク/ウエストランド・ミート・パッキングの労働者が、実名を隠して(報復を恐れて?)の電話インタビューに応じた。

 動物虐待の告発で知られる米国人道協会(HSUS)の一員として働く彼は、実名を使い、何のトラブルもなく、ホールマーク/ウエストランドに時給8ドルで雇われた。雇われていた6週間の間、ピンホールカメラをシャツの下に着け、ポケットでスィッチを操作しながら撮影した。夜はモーテルに帰り、発見をノートに記録、ビデオテープはクローゼットに隠した。

 彼は非人道的行為を目撃し、見たことをこのうえなくひどいやり方と判定(judgment calls)したという。

 Undercover Hallmark/Westland Videographer Protecting His Identity,Cattle Network,2.20
 http://www.cattlenetwork.com/beef_cattle_hot_topics_Content.asp?ContentID=199078

 ダウナーカウが食肉処理に回されているかどうかなど、こうまでしなければ分からない。米国の食肉処理 場内部の実情は、それほどまでに隠されている。注意すべきは、HSUSは、問題を察知したからではなく、まったくランダムにホールマーク/ウエストランドを内偵の対象に選んだということだ。さらに、この施設には5人の検査官が張り付いており、少なくともそのうちの一人は、病牛を食料供給から排除するのが仕事の獣医だったということだ。

 立てなくなった牛を蹴飛ばし、フォークリフトで無理矢理立たせているのに彼らは何をしていたのか。気づかなかったとすれば、検査官の資格はない。気づいていて見逃したなら、彼らは企業と癒着した犯罪者だ。どっちにしても、これが少なくとも2年にもわたり起きていたとすれば、USDAの検査体制に構造的問題があると疑わざるをえない。USDAが”アグリビジネス産業省”でしかないとすれば(USDAは「アグリビジネス産業省」、デタラメな米国BSE対策の根源 新レポート,04.7.26)、この疑いはますます確かなものになる。他の施設ではこんなことは起きていないと”信じる”というUSDAの弁明 など、誰が”信じる”ことができようか。

 この事件で、ホールマーク/ウエストランドの一人の労働者が動物虐待の廉で逮捕されたという。

 Beef Update: Worker Arrested In Hallmark/Westland Case,Cattle Network,2.20
 http://www.cattlenetwork.com/beef_cattle_hot_topics_Content.asp?ContentID=199077

 しかし、この事件が一労働者の処罰で終わっていいはずがない。必要なのは、検査体制を含む食品安全行政の抜本的改革だ。ニューヨーク・タイムズ紙社説も、何はともあれ、「議会は食品検査プログラム全体をオーバーホールする必要がある」と主張する。

 The Biggest Beef Recall Ever,The New York Times,2.21
  http://www.nytimes.com/2008/02/21/opinion/21thu1.html?ref=opinion