遺伝性BSEが存在する可能性 BSEの起源にも一石を投じる米国の新研究 

農業情報研究所(WAPIC)

08.9.15

  アラバマで2006年3月に確認され、”非定型”とされていた米国3例目の狂牛病(BSE)(米国農務省 アラバマの牛の狂牛病を改めて確認 疫学調査のために死体掘り起こし、農業情報研究所、06.3.16)が”プリオン蛋白質遺伝子の変異”に関連した病気であったとする新たな研究が発表された。米国農務省(USDA)農業研究局(ARS)及び動植物検疫局(APHIS)の二人の研究者は、人間の遺伝性クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)と同様な遺伝性BSEが牛のなかに存在する可能性を世界で初めて示したという。

 Jürgen A. Richt and S. Mark Hall,BSE Case Associated with Prion Protein Gene Mutation,PLoS Pathogens,08.9.12
  http://www.plospathogens.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.ppat.1000156

  研究者はこの研究で、非定型と言われるBSEのなかでもH-typeBSEに感染したこの10歳の牛のE211Kと呼ばれるプリオン蛋白質遺伝子内の新たな変異を確認した。この変異は、遺伝性CJDの人間に見られるE200Kの病原性変異と同一の変異である。他の要因の関与がないとは言い切れないが、研究者はE211Kの変異がこの牛のBSEを引き起こした可能性が高いと言う。

 ただし、遺伝性BSE自体の発生率は非常に小さい。5つの商業的牛肉加工場からの6062頭の牛、42種の2170頭の登録牛の最近の研究で、E211K変異は発見されていない。この変異の発生率は2000分の1以下にとどまろうという。

 この研究結果から、研究者は、未だ謎に包まれたBSEの起源にも言及している。このアラバマの1例を除く北米とヨーロッパの非定型BSEの牛では、このような遺伝子変異は発見されていない。非定型BSEの起源は依然として不明だ。しかし、今回の発見は、@英国のBSEが牛の遺伝性BSEから来た、A人間の伝達性海綿状脳症(TSEs)の三つの形態(弧発性、遺伝性、感染性)すべてが牛にも存在する、BBSEはインド亜大陸(インド半島)で始まったという三つの仮設を補強できるだろうと言う。

 1970年代末から1980年代はじめにかけ、インドから英国に大量の哺乳動物蛋白質が輸入されたことはよく知られている。従って、英国の牛のBSE汚染のあり得る一つのルートは、遺伝性BSEに汚染された輸入肉骨粉を含む飼料を通じてであると推測することも可能だというのである。