英国 海綿状脳症政府諮問委(SEAC)がBSE飼料規制緩和に慎重意見

農業情報研究所(WAPIC)

08.10.24

 英国海綿状脳症諮問委員会(SEAC)が22日、環境食料農村省(DEFRA)と食品規格庁(FSA)のBSE飼料規制緩和案に対する意見を発表した。DEFRAとFSAの動きはEUの伝達性海綿状脳症(TSE)ロードマップ(欧州委、EUの狂牛病措置改変に向けてのロードマップを採択,05.7.18)に沿うものだが、飼料規制を動物と人間 の健康を護る要の手段と見るSEACは、その緩和には極めて慎重だ。

 http://www.seac.gov.uk/statements/feedban-oct08.pdf

 SEACが諮問を受けた飼料規制緩和の選択肢は次の三つである。

 @飼料中の一定タイプの加工動物蛋白質(PAP)の許容レベルの導入。

 A若い反芻動物の食べるもののの中に魚粉を含めること。

 B非反芻動物のPAPを様々な種の非反芻動物に食べさせること。

 それぞれに対するSEACの見解は次のようなものである。

 @このようなPAP許容レベルの導入は、技術的に避けることが困難な、または偶発的な汚染を考慮に入れねばならない。しかし、このようなアプローチは、堅固な分析方法とサンプリング手続きが利用できるかどうかに決定的に依存するものである。これらの方法は、起源の種を同定することができ、また飼料の非常にマイナーな構成要素であるPAPの濃度を測定できるもの である必要がある。

 そのような方法は開発と評価の途上にあるが、今のところ、コントロール措置の執行に利用されるときにPAPを検出し・同定し・定量するための分析的検査の性能をSEACに信頼させるに十分なデータは存在しない。堅固な方法を欠いているから、許容レベルは無意味であり、人間の健康に対してあり得るリスクは評価できない。

 A多くの魚種は哺乳動物蛋白質遺伝子と相同の遺伝子を持つように見える。従って、一部の魚は、哺乳動物のTSE感染において見られる一定の病理的特徴を発展させる可能性がある。古典的スクレーピーまたはBSE感染性を与えられた少数の魚種の研究では、最初の 接種(摂取)物の急速な排出が見られるが、一定魚種への哺乳動物TSEへの伝達の多少の証拠もあり、あり得る伝達リスクを決定するためにはさらなる研究がなされるべきである。

 若い反芻動物の飼料に魚粉を含めることは、魚粉が飼料製造、混合、貯蔵の過程で哺乳動物PAPに汚染されれば、あるいは哺乳動物PAPを給餌された魚に残留哺乳動物PAPが存在し・それが魚粉を作るのに使用されるならば、若い牛が哺乳動物PAPに暴露されるルートを提供することになる。若い牛は比較的BSEにかかりやすいとはいえ、英国におけるBSE発生率が非常に低く、羊と山羊には存在しないことは、魚粉を若い牛に与えることによって生じるBSE感染のリスクは無視できるほどに低い。BSE発生率が無視できるほどに低いかどうかを確認するにはサーベイランスが不十分な国からの魚粉を考えるときには用心すべきであるが、この場合の感染ルートがBSEの多発(epidemic)をもたらすことはありそうにない。

 B非反芻動物の飼料にPAPを含めることは、飼料の製造、混合、貯蔵の過程で反芻動物飼料と非反芻動物飼料の交差汚染を引き起こす可能性を増す。これは、ある種の動物のPAPを含む飼料が同一種または近縁種の動物、または反芻動物に与えられることにつながる。それに加え、飼料または飼料成分のコストの上昇は、不適切な飼料または飼料成分が使用されるリスクも増す。

 BSE伝達のリスクは、飼料の製造過程や供給チェーンで感染動物由来の物質、特に特定危険部位が一定量混じり、同一種または異種の動物に与えられることで初めて生じるが、英国の強化された飼料規制(1996年)以後に生まれたBSEのケースの経験は、伝達を生じ得る汚染物質の量が非常に少ないことを示唆している。従って、非反芻動物飼料のBSE汚染レベルが低くても、それが牛に与えられればBSE伝達のルートになり得る。このような交差汚染を防ぐルールは執行が困難で、この状況ではBSEの排除は保証できない。

 しかし、SEACによると、一つのコントロール措置の有効性は他の措置によっても影響されるから、BSEリスクの評価は、このような個々の措置変更の影響だけではなく、コントロールの多種の変更が考えられるときには、コントロール体制への複合的影響も考えねばならない。ところが、このような評価は、多くのリスク要因が定量できないから、困難だ。

 動物と人間の保護のための決定的に重要な措置が実施されていれば、それほど重要でない措置の変更から生じるBSEリスクの増加は低く、BSEのさらなる多発は防げるかもしれない。しかし、BSEのリスクを最小限にするためには、この決定的に重要な措置が遵守され、適切に実施されるように保証する執行が重要である。

 BSEコントロール体制のいかなる変更も、基本的には、牛へのBSE伝達リスクの増加につながる。このリスク増加は、BSEを英国から排除するという政府の目的の達成を一層困難にする。

 SEACは、さらに、コントロール変更の一層広範な意味にも触れる。

 第一に、変更は、それが動物と人間のTSE発生率にどんな変化をもたらすかを監視する適切なサーベイランスの維持を重要にする。ところが、TSEの潜伏期間は長く、一般的に適用可能な生前検査もないから、変更がもたらす影響の発見は遅れ、大規模感染を防ぐための措置の再導入は手遅れになる恐れがある。

 第二に、飼料規制の変更が新たなTSE株を出現させる恐れがある。飼料規制の変更の結果としての一動物種由来の物質の他の動物種による消費がTSE株の変異をもたらすかもしれない。それは人畜共通感染症である可能性があり、人間への伝達性はBSE以上に大きい可能性もある。しかし、新たなTSE株のホストの範囲や伝達のバリアーは予見できない。

 最後に、牛におけるBSEの大規模発生や、人間におけるクールーの発生は、哺乳動物物質の同種間でのリサイクルがそれを引き起こし、持続させる可能性があるという証拠を提供している。従って、動物飼料を通しての動物物質の同種間リサイクルを避けることが、既存及び新興のTSE病原体の増大を防ぎ、家畜におけるさらなるTSE発生を防ぐ。