農業情報研究所

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狂牛病の欧州化とグローバル化

WAPIC(農業情報研究所)・2001.4

(その後、若干の数字は更)

ここには目次と「はじめに」のみを掲載します。全文をお望みの方は下記へお申込下さい。

農業情報研究所 TEL & FAX 03(5834)1808 または e-mail:tkitaba@juno.dti.ne.jp

 目次

 はじめに

1.フランスの危機

 (1)フランスの危機の経緯

 感染牛が市場へ、牛肉不信の増幅と消費の激減

 政府の対策

 (2)フランスの危機の背景

 狂牛病確認の増加と検査の強化

 何故感染したのか

2.狂牛病の欧州化

 (1)危機の拡大

 ドイツ等での狂牛病発見でパニックが拡大

 (2)EUの対応

 「例外的事件には例外的対応」を

 対策実施の困難

 「工業的農業」、「グローバル化」の批判へ

 グローバル化の制御に向けて

3.狂牛病グローバル化の脅威

 終わりに

 (本文)

はじめに(目次へ)


・・・草食動物たちに過度の動物性を付与する(かれらを肉食動物にするだけでなく共食い動物に変えてしまう)ことによって、われわれの「食料生産装置」を、死をつくりだす装置に変えてしまったのではないだろうか。
 (クロード・レヴィ・ストロース(川田順造訳)「狂牛病の教訓―人類が抱える肉食という病理」『中央公論』2001年4月号)

 牛海綿状脳症(BSE)、別名「狂牛病」は、牛の脳組織にスポンジ状の変化を起こし、発症すれば2週間から6ヵ月で確実に死に至る伝達性海綿状脳症(TSE)の一つである。1985年末、世界でただ一国・英国において初めて確認された。その原因は十分に解明されていないが、通常のタンパクが異常化したプリオンといわれる得体のしれない「モノ」に帰する考えが広く受け入れられている。

 他方、ヒトについても、クールー、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)などのTSEが確認されていたが、1996年3月20日、英国の海綿状脳症諮問委員会(SEAC)が、比較的若年層で発生する新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)を確認、この発生は牛の特定内臓(SBO)の使用を禁止した1989年以前にこれらを食べたことに関連づけるのが最も説明しやすいと発表した。これを契機に最初の狂牛病危機が勃発した。

 しかし、これまでは、狂牛病もvCJDも、英国(及びアイルランド)に特有の病気とみなされていた。フランス、ポルトガルの土着の牛(輸入牛ではない)にも感染が確認されていたが、その数は非常にすくなかった。ところが、vCJDが確認された96年頃から、ポルトガルやフランスでの狂牛病確認が増え始め、数は少ないが、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグでも確認されるようになる。そして、昨年(2000年)には、フランスでの確認件数が急増、11月には、いままで狂牛病に無縁とされてきたスペイン、ドイツ、さらに今年に入りイタリアでも感染が発見された。これらの発見は、検査の強化の結果でもあったから、BSEがなかったのは、十分な検査をしていなかっただけという疑いが濃厚になり、牛肉の安全性に対する消費者の信頼は崩壊した。いまや、EU全域の牛肉消費が激減、価格も暴落している。

 それだけではない。2000年末以来、国連の世界保健機関(WHO)や世界農業食糧機関(FAO)が、BSEが欧州のみならず、世界に拡散する恐れがあると警告を発し、各国に対処を求め始めた。BSEの感染ルートと認められている英国の肉骨紛(MBM)が、1996年まで多くの国に輸出されており、英国を除くEU諸国は、96年以後も世界中にMBMを大量に輸出してきたからである。FAOは、少なくとも100カ国にBSE潜在の危険があるという。実際、EU域外諸国でも牛肉を食べることへの不安が広がり、牛肉消費の減少を招いている。

 EUでは、狂牛病危機を契機に、「工業的農業」を促進する共通農業政策(CAP)の見直し論議が高まっている。英国における口蹄疫の発生と急速な拡散はこの論議に拍車をかけ、食料供給のグローバリゼーションへの疑念にまで発展している。しかし、それは、またそれを支える西欧社会、グローバル社会はどこまで変わるのだろうか。

 レヴィ・ストロースが言うように(前掲)、既に肉の消費が自然発生的に低下しつつある西欧社会の変化を「加速」し、肉は「とっておきの宴会」のために、自由の身となり・野生に戻った家畜の「狩猟」によってしか手に入らなくなり、「人類の進化は、[グローバル文明と称するものの拡大による地球の]単一化に向かうのではなく、様々なものの対照を、新しいものさえ創出してきわだたせてゆき、多様性が支配する世界を再現する」ことになるのだろうか。

 狂牛病が提起する問題は十分に見つめるに値する。