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EU:欧州委、重金属・PAHs大気汚染抑制指令案採択

農業情報研究所WAPIC)

03.7.18

 欧州委員会は、7月16日、大気の重金属汚染の有害な影響を最小限に抑えるための指令案を採択した。この指令の対象となる重金属は砒素、カドミウム、水銀、ニッケル、多環式芳香族炭化水素(PAHs)で、これらの長期にわたる吸入は肺癌その他の人間の健康に悪影響を及ぼす恐れがあるとされている。指令案は、EU構成国による大気質監視を義務化し、適切な汚染削減措置を取り、その実施を監視するために必要な情報を提供しようとするものである。この指令は、1996年の大気質枠組指令でスタートした大気質立法の完全なオーバーホールの最後の部分をなし、EUが大気の重金属とPAHsによる汚染に取り組む最初の立法となる。

 このような立法の背景には、大気中のこれら物質の濃度の高まりが癌などによる大量の死者を生み出しているという認識がある。

 砒素・カドミウム・ニッケルの濃度の高まりは、拡大25ヵ国EUの150地域で、100万人中1人かそれ以上の癌死をもたらしていると推定される。新たな汚染削減措置が取られなければ、PAHsの吸入を通しての拡大EU内の肺癌患者は、2010年までに400人以上増えるだろうとされる。PAHsは主として不完全燃焼から排出される20以上の同類の発癌性化学物質の一つにすぎないが、それらの人間の健康への影響は、そのうちのたった一つの物質・ベンゾ-a-ピレンの濃度監視を通して評価できるという。

 その一部居住地域における年平均濃度は、石炭や薪などによる家庭暖房のために3ナノグラム(ng)/m3に達している。指令案は、EU構成国がこれを1ng/m3にまで減らすことを要求している。また、道路交通からの排出によりこの濃度が3ng/m3以上になり得る混雑した街路での削減措置の必要性にも言及している。

 鉄鋼業、銅・ニッケル生産、石油精製所、コークス炉など一定の工業施設周辺の重金属・PAHs濃度も人間の健康にリスクを生んでいる。1996年の統合汚染防止・抑制指令は、これら施設が利用できる最善の技術によって大気中への排出を防止し、削減することを要求しているが、新指令案は、期待される大気質改善を調査することで、これら措置の実施を支援する。漏れや土から上がる粉塵など、移動し・拡散する排出源からの排出を監視する困難に取り組む。

 この新指令の実施後数年以内に、重金属とPAHsに関係する大気質の情況が一層完全に明らかにされる。この情報は、土壌汚染の調査とこれら汚染物質の人間の健康への影響に関する最新の科学的証拠で補完され、欧州委員会は2008年に新指令の有効性を吟味、必要な場合には手直しを図る。

 Press release:Commission adopts measures to reduce air pollution by heavy metals(03.7.16)
 ProposalCOM(2003)423(unofficial version)