農業情報研究所

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除草剤・グリフォサートがカビ増殖を速める?

農業情報研究所WAPIC)

03.8.21

 除草剤・グリフォサートが、小麦に多大な被害を与えている赤カビ病原菌(真菌=カビ)の増殖を促進するかもしれないというカナダ研究者の発見がわが国でも反響を呼んでいるようである。グリフォサートは、世界で最も広く使われ、除草剤耐性遺伝子組み換え(GM)作物の栽培にも必ずといってよいほど使われる除草剤であるから、これが決定的結論であるとすれば、確かにことは重大である。現在商品化されている除草剤耐性GM作物の導入の是非に関する議論にも大きく影響する可能性がある。しかし、当研究所は、この研究が進行中のもので、最終的結論が可能になるのは来春であるということから、無用な混乱を避けるために、敢えて報じることを止めてきた。ところが、この研究について報じたNewScientist.comの8月14日付の記事がわが国でも翻訳されて紹介されたり、専ら懸念を強めるような情報の流れもあるようなので、正確なところを伝えておきたい。要は、今のところ、グリフォサートが真菌増殖を速めるというのは、「可能性」であって、最終的に確認されてはいないということである。

 この問題は、数年前、カナダ農業・農産食料省により運営される半乾燥平原農業研究センターのミリアム・フェルナンデズ(読みが正確かどうかは保証できません。原語ではMyriam Fernandez)が注目したもので、このとき、彼女は、前年にグリフォサートが施用されたいくつかの圃場の小麦のフザリウム穂枯れ病による被害が大きらしいことに着目した。この病気は、穀粒を損傷し・ピンクの変える破壊的真菌病である。彼女は、これをより正確に確認するために、小麦圃場の罹病のレベルを測定する追試験を行なった。彼女の同僚であるケイス・ハンソンは、その結果、前年にグリフォサートが使用されたときに罹病のレベルが高くなることがわかったと言う。また、彼の実験室での研究は、穂枯れ病を引き起こす真菌であるFusarium graminearum(フザリウム・グラミネアラム)とFusarium avenaseumu(フザリウム・アベナシューム)の生長が、グリフォサートをベースとする殺草剤を加えた培地で、より速いことも示した。

 しかし、研究者たちは、すべてのデータが揃うまで判断は延ばすと慎重で、屋外圃場・温室実験を計画しているという。ハンソンは、真の問題は、この真菌が土壌中により多くの胞子を残すかどうかだと言っている。影響は、単に、除草剤が真菌生長のための死んだ植物物質を土壌中により多く残すためで、グリフォサートにより直接引き起こされたものではない可能性もあるという。彼によれば、答えは来春までわからない。

 これが記事の伝えるところである。他の決定的研究がないかぎり、我々も、来春の結論を注目して待ちたい。

 なお、グリフォサートについては、一般に急性毒性は低いとされている。また、生殖への悪影響、神経毒性、変異原性、発癌性も認められないとされているが、これを疑わせる研究もないわけではない。