EU委員・ヴァルストレムの血液検査、化学物質人体蓄積を実証

農業情報研究所(WAPIC)

03.11.7

 欧州委員会は先月末、日常的に使われている多数の化学物質の詳細な安全性評価を義務付け、化学物質の登録・評価・許可の枠組み(REACH)を定める新たな立法の提案を行ったが、化学工業界は経済的コストの増加による競争力喪失を恐れて、なお強く抵抗する構えをみせている(欧州委、史上最大の環境立法、化学物質規制案を提案,03.10.30)。この状況下、環境担当委員・マルゴット・ヴァルストレム委員が、問題の所在を示すために自らの血液サンプルを提供した。11月6日に発表された検査結果は、新立法の中心目的の達成がいかに重要であるかを改めて示すものであった(*)。彼女の血液は、人体が実に多くの残留性化学物質を蓄積していることをまざまざと証明してみせたのだ。この結果は我々についても同じかもしれない。

 ヴァルストレム委員は、世界野生動物基金(WWF)が行う生物監視調査に参加、英国ランカスター大学の環境科学部に検査のための血液を送った。この血液は、英国とベルギーの他の156人の血液とともに検査された。チェックされたのは、テレビ、絨毯、家具、食品などの日用品の中に発見される77の人工的化学物質である。これらの化学物質は、PBDEs(ポリ臭化ビフェニルエーテル類)、PCBs(ポリ塩化ビフェニル)、OCPs(有機塩素系農薬)に大別される。これらの物質は難分解性で、環境中に長期にわたって残留、人体や動物体に蓄積される。また、妊娠や授乳を通じて子供にも移動する。ホルモン撹乱作用があると言われ、生長途上の胎児の危険は特に大きく、動物では性転換を引き起こすことも知られている。一部物質には発癌性の疑いもある。彼女の血液からは、これら77うち、28の化学物質が見つかった。

 彼女の血液からは多数のPBDEsが検出された。Penta-BDE(ペンタ臭化ジフェニルエーテル)、Octa-BDE(オクタ臭素化ジフェニルエーテル)が中心であった。これらの物質は、カーテン、ソファーなど多くの家庭繊維製品、家具、車、家電製品などに難燃剤として使われている。動物組織や発生源 からはるかに離れた水の中に発見されており、地球規模の影響も懸念されている。大気中にも検出される。主には食事、特に脂肪の多い魚のような高脂肪食品から取り込まれると考えられている。体内に入ると、その一部は健康を害する恐れがあるPBDEメタボライトと呼ばれる物質に分解される。多年にわたり人体にとどまり、主に体脂肪に貯蔵され、乳脂肪に濃縮される傾向がある。人間の発癌性は確認されていないが、あるものについては動物での発癌性が見つかっている。

 EUではPenta-BDEとOcta-BDEの販売と使用の禁止が最近決定され、2004年8月から禁止が発効する。新たなREACHシステムが採択されれば、それによって規制されることになる。

 彼女の血液からは、多数の様々なPCBs、OCPs(特にDDT)も検出された。これらの有害性は既に示されており、PCBsは残留性有機汚染物質(POPs)に関する2001年のストックホルム条約の下で禁止される。この条約にはEUを含む150ヵ国が調印しており、近々発効するものと予想される。DDTについては、EUでは1978年に若干の例外を除き農業用使用が禁止され、1983年にはすべての農業用利用が禁止された。DDTはPOPsの一種であり、今後はPCBsと同様に扱われることになる。しかし、かつて大量に使われたこれら物質は、いまや海洋を含めた地球全体を汚染している。 

 このような調査の例はあまりなく、今回の調査結果をヨーロッパ全体のデータと比較するのは容易でないという。しかし、ヨーロッパだけでなく、世界中で同様の結果を予測することは、多分間違っていないであろう。地球全体に拡散してしまったこれら物質を完全に除去する方法はないだろうが、一層の拡散を防ぎ、悪影響を軽減するための取り組みを強めるために、世界的規模での同様な調査が望まれる。

 *European Commission,Presence of persistent chemicals in the human body results of Commissioner Wallstrom's blood test,11.6