欧州委、史上最大の環境立法、化学物質規制案を提案

農業情報研究所(WAPIC)

03.10.30

 1029日、欧州委員会は化学物質の製造または輸入を規制するための新たな枠組みを提案した。今年5月、インターネットを通じて協議に付すための素案が提出されていたが(EU:欧州委員会、化学物質規制制度の抜本的改革を提案,03.5.8)、この協議を終えて改めて提案されたものである。

このところ大きな関心を呼んでいるのは、ポリ臭化ビフェニ―ルだ。難燃剤として衣料品・家具・プラスティックなどに広く使われているが、癌や脳の発達障害をもたらす危険性が疑われている。また、子供のパジャマに最近発見されたノニル(一価)フェノール、フタル酸、有機スズなどの危険性も大きな関心事となっている。これまで、ほとんどの化学物質はシスティマチックな安全性評価を受けておらず、問題が起きた後に禁止されるだけであった。

提案にあたり、ヴァルストレム環境担当委員は、EUは「世界で最も進んだ化学物質管理システム」をもつことになると語った。この枠組みの下では、日常的に使われる数万にのぼる化学物質の安全性が初めて評価されることになる。ただし、産業や各国政府の猛烈な反対で、5月の素案からは後退を余儀なくされた。環境団体からは、少数の大企業のために人々の健康と環境を犠牲にするものと反発も出ている。1981年以前に販売に出された夥しい数の物質が厳格なテストを免れるという大きな抜け穴がある。グリーン・ピースは、化学物質は環境と食品チェーンのなかに蓄積しており、分解されていない。常にこれらの物質にさらされていることになると批判する。

提案されたのは、REACHと呼ばれる化学物質登録・評価・許可の枠組みである。EUでは10万の化学物質が使われているというが、新たに提案されたREACHでは、このうちの30%ほど、年間1トン以上生産される物質がコントロールされるだけだ。これらおよそ3万の物質は、今後13年間の間に、これらを生産するか輸入する企業により新設の「欧州化学物質庁」に登録されねばならない。欧州委員会は、このうち、大量に生産され、有害と疑われる6千ほどの物質がさらなる評価を必要とすると見ている。発癌性物質、または残留性環境汚染物質は、この評価を通して許可されねばならない。

欧州委員会は2001年に、企業に3万の化学物質すべての詳細な安全性評価を提供することを義務付ける提案を行なった。これは余りにコストが大きすぎるという企業の猛烈な反対を引き起こし、米、英、仏、独などの政府もこの反対を後押しした。動物福祉団体も、動物実験が激増すると反対運動を展開した。結局、欧州委員会は、極力動物実験を避ける方法を探るとともに、年間1トンから10トン生産される2万の物質について企業が十分な情報を提供しなければならないというところまで後退することになった。

それでも、化学業界はコスト上昇と失業増加につながると批判している。

提案は、今後、欧州議会と閣僚理事会による共同決定手続を経て立法化されることになる。

提案の概要・目的・背景及び細部については、上掲の既報と次の資料を参照されたい。
 European Commission Press Release: Chemicals: Commission presents proposal to modernise EU legislation,03.10.29
 European Commission: Q and A on the new Chemicals policy REACH,03.10.29
 European Commission:Impact Assessment of the Chemicals proposal,10.16

 Proposal for a regulationAnnex I to IX Annex X part A Annex X part BAnnex X part CAnnex XI to XVII and Financial statementProposed DirectiveFlowchart New Extended Impact Assessment of the REACH draft legislation

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Europe launches chemical safety crackdown,NewScientist.com,10.29
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EU launches chemicals crackdown,BBC News,10.29
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Brussels unveils chemical testing plans,FT.com-World,10.29
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EU dilutes its plans for deadly chemicals,Guardian,10.30
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Bruxelles sensible aux arguments toxiques: Intense lobbying des industriels contre le projet d'évaluation des produits chimiques,Libération,10.30
 ・EU Launches Crackdown on Harmful Chemicals: Employees of German chemical giant Bayer AG could be affected if the EU's new bill becomes law, dw-world.de,10.29

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