タイ:ライムと有機肥料でカドミ汚染農地修復を計画 だが汚染源対策は?

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農業情報研究所(WAPIC)

04.5.20

 タイ農業省がカドミウムに汚染された農地の修復のためにライムと有機肥料を利用することを計画している。5月15日付のバンコク・ポスト紙によると(1)、農業省の土壌専門家とこの問題の解決のために特別に設置された委員会委員が、汚染土壌にライムと有機肥料を混ぜる試験所実験の結果は「満足」できるものだったと発表した。ライムが酸度を中和し、肥料がカドミウムと反応、重金属を植物が容易に吸収できる物質に変える。確認のためのさらなる実験が必要だが、耕作シーズンが間近に迫っており時間がない、多分、追加実験は行われないだろうという。

 問題の発端は、今年2月末、汚染監督局(PCD)がミャンマーと国境を接するターク県メー・ソート郡の二つの村のコメに異常に高濃度のカドミウムを検出したことにある。二つの村から集められたコメ穀粒を検査したところ、1s当たり0.2rの国際基準を超える0.7rから2rのカドミウムが発見された。国際水管理研究所(IWMI)は2002年、土壌、コメ、ニンニク、大豆、近隣河川水が高濃度のカドミウムを含むことを発見していたが、これに促されたPCDの検査がこれを確認することになった(2)。

 以来、二つの村のおよそ1千の農家が生産する2万トンのコメが販売できなくなるか、非汚染米のごとくに販売する悪徳商人に安値で買い叩かれることになった。大豆、二ンニク、野菜類も売れなくなり、村人も自家産の農産物が食べられないという悲惨な事態となった。中には、安全なコメを購入するカネもないために、危険を承知で汚染米を食べ続ける人々も現われた。村人は救済措置を要求、法律家協会が仲介に乗り出し、政府が汚染米を買い入れるか、汚染されていないコメを供与するように要求した(3)。5人の村人が腎臓を冒され、17人の腎臓機能障害も発見された。この事実を受け、3月30日には、農地のカドミウム汚染に関する政府の対策を要求して郡の三つの村の7千の人々が改めて決起した(4)。

 汚染源としては、最初から近辺の亜鉛鉱山が疑われていた。関係する二つの会社は、汚染源と確認されれば責任を取ると言いながら、汚染源であることを否認してきた。4月初め、自然資源環境省が一部水田のカドミウム汚染がこれら会社に起因すると確認、高濃度の汚染が発見されたコメは廃棄するしかないと130トンの買い入れを示唆、他の900トンも食用不適と発表した。会社はコメ買い入れのために110万バーツを支払うことに合意した。だが、責任をはっきりと認めたわけではなく、別の独自の研究を始めた(5)。その傍ら、会社自身がコメを買い入れれば罪を認めたことになると、政府の責任での買い入れを要求(6)、政府は4月末になって、漸く政府援助計画の下で買い入れることを決めた(7)。

 だが、これで問題が解決するわけではない。汚染源が断たれ、汚染がなくならない限り、村人は生計の手段を取り戻すことはできない。4月20日には、近隣の50kmにわたる河川と18の池の汚染状況を調査した鉱物資源局が、汚染のさらなる拡大を確認した。およそ20km2の農地土壌が最大560r/s(EU基準では3r/s)のカドミウム汚染を受けていることが判明した(8)。農業省は4月末、漸く問題解決のための委員会を立ち上げ、両村の農業の再生に取り組むことを決めた。問題が発覚してから既に2ヵ月が過ぎている(9)。

 今回の発表は、この委員会の検討結果を示すものだ。ソムラン土地開発局長は、土壌の重金属汚染問題は、重金属が除去できないから難しい、適切な解決策は問題を終わらせることで、別の問題を作り出すことではない、従ってカドミウムを他の場所に移動させることではない、と言う。冒頭のライム・有機肥料利用計画のほか、汚染の広がりを防ぐための堤防も建設されるという。また、コメ栽培から花卉に転換することはコストが高すぎて実行不能で、花卉を販売用樹木に置き換えることも示唆している。解決策は今週提案されるだろうというが、未だその報には接していない。

 不可解なのが汚染源対策には何も言及されていないことだ。二つの亜鉛会社はなお責任を認めていない。汚染源を断たないかぎり、問題は根本的には解決されない。汚染レベルは決して自然の汚染ではなく、人工的汚染であることを示している。政府の環境汚染に対する姿勢が問われる。

 世界銀行は昨年、最近数10年のタイの経済成長は環境対策を犠牲にしてきたと注意を促した。この報告は、タイ経済の最近の台頭は巨大な環境コストを生んでおり、とくに地表水の3分の1は人間の消費、あるいは農業用利用に不適と評価されたと言う。環境法の整備や問題に取り組む組織の設立では大きな前進があったが、多くの農家や工場は周辺を汚染し続けている、監視や執行が不十分なために規制の実施も阻まれていると指摘した。水質汚染の問題でタイの農産物収穫がすぐにも劇的な影響を受けることはないだろうが、汚染を早急に止めなければ、タイの土壌は数10年のうちに、どんな作物にも不適になってしまう恐れがあるという指摘もある。

 カドミウム汚染はごく一部の地域の問題かもしれない。だが、これに取り組む姿勢は、タイ農業の持続可能性を占う重要なカギになるだろう。

 (1)Lime,fertiliser plan to rehabiliate soil,Bangkok Post,5.15
 (2)High levels of cadmium found in rice,Bangkok Post,2.28
 (3)Farmers eating tainted crops,Bangkok Post,3.29
 (4)Villagers seek urgent govt assistance,Bangkok Post,3.31
 (5)Mining firms agrees to buy cadmium-laden rice grain,Bangkok Post,4.9;Mining firms to fund own study,Bangkok Post,4.10
 (6)Zinc miner insists it will help villagers,Bangkok Post,4.24
 (7)Tainted rice to be bought under govt aid scheme,Bangkok Post,4.27
 (8)More cadmium found in Tak,Bangkok Post,4.21
 (9)Panel looks at reviving vallages hit by cadmium contamination,Bangkok Post,4.30
 (10)「水と農業Cタイ 深刻さ増す水質汚染」『日本農業新聞』04.1.25(3面)

農業情報研究所(WAPIC)

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