米EPA、農薬人体実験で新規則を提案ー子供・妊婦の試験を禁止、なお抜け穴の批判

農業情報研究所(WAPIC)

05.9.9

 米国環境保護庁(EPA)が7日、論争の多い農薬”人体実験”を律する倫理的基準を確立する規則を提案したと発表した。新たな規則は、連邦基準の設定を助けるための農薬影響に関する”第三者”(EPA自身やEPAが支援・主宰する研究の実施者でない者)の研究で子供と妊婦を故意に農薬に曝すことを禁止する。また、この規則は、ありうるリスクに関する完全な情報開示で、人間を農薬にさらす研究への自主的参加者を倫理的に扱うことを確保することを意図するものという。

 EPA Proposes Strict Ethical Safeguards on Human Studies Research http://yosemite.epa.gov/opa/admpress.nsf/d9bf8d9315e942578525701c005e573c/e1902d8a6561c7ba85257075004f4f4c!OpenDocument

 発表によると、これら諸規制は、最高度の倫理的・科学的基準を満たさない人間の研究の実施を強力に挫き、防止するために構想された。加えて、提案された規則における保護は、全米科学アカデミーの勧告に合致するという(→全米科学アカデミー委員会、農薬人体実験を容認,04.2.21)。

 提案された規則は、人間を農薬に意図的に曝す「新たな」研究について、研究者が次のことに従うことを要求する。

 1)共通規則(連邦が行うか、支持する研究のための現在の倫理基準)に従うこと、

 2)研究が新たな倫理的保護に合致し、科学的に健全であることを確保するためにEPAが審査できるように、開始に先立ち詳細な研究プロトコールをEPAに提出すること、

 3)研究が行われた場合には、それが必要な倫理的保護にいかに合致しているかを記述する詳細な情報をEPAに提出すること。

 この規則は、人間研究に依拠しているかどうかの決定でEPAが従う基準も設ける。研究プロトコールと選抜された利用可能な研究を審査するための”人間研究審査ボード”を設置する。新たな保護は、EPAが実施する研究、EPAが支援または主宰する研究、農薬製造者や他の研究者が行う研究に適用される。 ただし、EPAの農薬プログラム・ディレクターのジム・ジョーンズは、過去に行われた人体実験の研究は受け入れると言う。

 EPAは、研究参加者に保護を提供するという最も重要な目標をもって情報が得られた場合にのみ、人間に関するデータを考慮する、これは非倫理的研究が決して実施されるべきではないし、EPAに受け入れられないという明確なシグナルを送ろうとするものだと言う。

 提案された規則は、90日間のパブリック・コメントを経て、来年1月から実施される。

 米国では、クリントン大統領が1998年にモラトリアムを課すまで、農薬の環境・健康影響を一層明確に把握できるという理由で、メーカーが人体実験を行うことが許されてきた。ブッシュ大統領も、最初はこのモラトリアムを支持していた。しかし、2003年、連邦政府は人体実験から得られた情報の利用を禁止する前に十分な国民の同意を得なかったというメーカーの言い分を支持する裁判所の判決が出ると、ブッシュ政府はこれに従ってモラトリアムを放棄した。現在、EPAは、農薬を承認すべきかどうかを判断するときに、人間による実験のデータをケース・バイ・ケースで考慮に入れている。

 EPAのやり方を長い間批判してきた批判者たちは、新規則は、なお研究者が毎日毒物にさらされる妊婦や子供を観察するのを許し、EPAが新たなガイドラインに合致しなかった過去の研究結果に頼ることを許すと 批判する[新規則も、子供や妊婦がかかわる研究を”第三者”について禁止するだけだ]。

 今年4月、二人の民主党上院議員が、EPAが幼児・乳児への農薬の影響の研究を続けるならば、EPA長官補佐・ジョンソン氏の新EPA長官指名を阻止すると声を上げた。 この研究計画は、両親が2年間の実験を完遂すれば、その子供が農薬に曝された彼らに970ドルの現金とビデオカメラ、よだれ掛け、Tシャツを与えるというものだった。この実験への参加の要件は、フロリダ・デュヴァル郡に住み、3歳以下か、9-12歳の子供をもち、家庭内で毎日農薬を撒くということだった。研究資金の一部は、農薬メーカーを含む産業団体・アメリカ化学カウンシルが出していた。こうした事実が国民の前に明らかにされることになった。指名拒否の危機に直面したジョンソン氏は、直ちに研究停止を決めた。しかし、その理由は、子供に農薬を振り掛けるなどと”誤り伝えられる”ような雰囲気のなかでは、信頼できる研究はできないというものだった(E.P.A. Halts Florida Test on Pesticides,The New York Times,4.9)。

 批判者は、こうしたやり方がなお続くと恐れているわけだ。

 ニューヨーク・タイムズ紙によると(E.P.A. to Bar Data From Pesticide Studies Involving Children and Pregnant Women,The New York Times,9.7;http://www.nytimes.com/2005/09/07/politics/07enviro.html?pagewanted=all)、6日のEPA担当官と報道記者の議論では提案のコピーは示されなかったが、上記の民主党議員の一人であるカリフォルニア選出のバーバラ・ボクサーは、提案を仔細に見ると、先月行政管理予算局(OMB)に送られた草案で確認された弱点ーEPA担当官はそれは取り除かれたと説明するーを払拭するものではないと言う。彼女によると、「一つのことは明瞭だ。それは、数週間前にOMBに提出されたバージョンを劇的に変えるものでなければならない。そうでなければ、わが国の最も弱い市民を直接攻撃することになる」。 

 EPA農薬プログラム部長のジョーンズ氏は、EPAは人間がかかわる農薬テストをめぐる市民の怒りで大変な警告を受けてきたから、新たなプロトコールは妊婦と子供を含むいかなるテストも考慮から外す、提案された規則は現在EPAで審査されている人間がかかわる22のテストーそのうち二つは子供がかかわるが、妊婦がかかわるものはないーにも適用されると語っている。

 しかし、環境団体・自然資源防衛委員会の上級法律顧問であるエリック・オルソン氏は、「彼らが既に行われた研究を受け入れることになれば大問題だ。過去の何十もの非倫理的研究がEPAで審査されている。これを受け入れるとすれば、新たなルールはまったく不十分なものだ」と言っている。