農業情報研究所環境農薬・化学物質・有害物質2006年1月18日

    殺虫剤・クロルピリフォスに男性生殖能力損傷の疑いー米国の新研究

 ミシガン大学等の米国研究者が、有機リン系殺虫剤・クロルピリフォスの分解物が性ホルモンのレベルを引き下げ、男性の生殖能力を損なう可能性を発見した(*)。これは、この農薬と生殖能力低下の関連を立証するものではないが、研究者は、この農薬が広く使われ、多くの男性がこれに曝されていることから、何らかの悪影響があり得ると懸念している。この農薬と生殖能力の関連性を指摘する研究は初めてのものだ。我が国でも、とりわけシロアリ防除剤として大量に使われ、室内空気汚染を引き起こしてきた過去があり、高度の水系汚染も見られる。見過ごすことのできない研究だ。

 研究者は、多くの男性の尿に非残留性殺虫剤の代謝物質が検出されてきたことから、そうした殺虫剤の中からクロルピリフォスとカルバリル及びナフタレンを選び、それらの分解物質であるTCPYと1ナフトール(1N)の尿中濃度と成人男性の血清再生ホルモンのレベルの関係を調べた(研究の対象となったのは、2000年から2003年の間にマサチュセッツで生殖能力クリニックを訪れた夫婦の268人の男性パートナー)。

 その結果、これらホルモンの一つであるテストステロンのレベルは、TCPYの濃度が高まるに連れて着実に低下した。TCPY濃度が最も高い男性では、最も低い濃度の男性に比べ、テストステロンの濃度は10%ほど少なかった。1Nとテストステロンに間でも同様な関係が見られた。研究は、成人においてTCPYと1Nはテストステロンのレベルの低下と関連している、この低下は、これら非残留性殺虫剤への広範な暴露のために、公衆衛生上の重大な意味をもち得ると結論している。

 *Meeker, John D.; Ryan, Louise; Barr, Dana B.; Hauser, Russ;Exposure to Nonpersistent Insecticides and Male Reproductive Hormones,Epidemiology. 17(1):61-68, January 2006;Abstract