米国環境保護庁 殺虫剤3200の利用禁止と1200の食品残留許容量修正を勧告

農業情報研究所(WAPIC)

06.8.4

 米国環境保護庁(EPA)が3日、1996年食品品質保護法(FQPA)が命じたすべての食品に利用される殺虫剤の最大限残留許容量の99%の再評価を完了したと発表した。この再評価はFQPAが10年以内の完了を要求していたものだ。230の有機燐・カーバメート系殺虫剤に焦点を当てたこの研究で要求された9721の再評価のうちの99%に当たる9637の評価を完了、5237は安全性を確認、3200は許容量を取り消し(つまり利用を禁止し)、クロルピリフォス、ダイアジノン、メチルパラチオンなどに関する1200は許容量を修正することを勧告するという。

 Accomplishments under the Food Quality Protection Act (FQPA),06.8.3
 http://www.epa.gov/pesticides/regulating/laws/fqpa/fqpa_accomplishments.htm

 この研究は、食品や飲料水中の殺虫剤への暴露と並び、住民の殺虫剤利用やその他の非職業的利用から生じる暴露の総合的影響を評価、さらに多数の異なる農薬への暴露の複合的健康影響も考慮したという。

 EPAは、この研究結果に基づき、食品・飲料水、施用者、畑で暴露される鳥のリスクが大きいと確認されたカルボフランの大部分の利用の廃止と食品残留許容量の取り消しを提案する。残り6つのマイナーな農業利用については、有効な代替品の登場に期待、4年間で段階的に廃止するという。また、クロルピリフォス、CCA(クロム化砒酸銅)、DDVP(ジクロルボス)、ダイアジノン、メチルパラチオンなど広く使われている殺虫剤の利用も大きく制限するという。

 EPA Press release:U.S. Continues to Set Bar on Pesticide Safety,08.8.3

 2日には、より安全で低コストで利用できる代替品があるとして、大麦、コーン、オート、ライ、ソルガム、小麦の種子の処理になお使われているリンデン(BHC)の販売を企業が自主的に停止する(販売済みのものは使用継続が可能)とも発表している。

 EPA:Pesticide News Story: Registrants Request Cancellation of All Remaining Lindane Uses and Registrations,8.2

 EPAは、その結果、EPAとそのパートナーは、「安全で有効な殺虫剤が世界で最も豊かで、手頃で、健康的な食品の生産を助け、またアメリカの他の害虫防除の必要性を安全に満たすために利用できるように確保する総合的プログラムの枠組と行動を向上させた」と言う。

 ステフェン・ジョンソンEPA長官によると、ブッシュ政府は果実・野菜・その他の食品の生産に利用される殺虫剤が世界で最高の保護基準に合致するように保証している、10年にわたるレビューは、農業者が幾世代ものアメリカ家族に豊かで、健康的な食品を生産することを可能にする、また殺虫剤を施用する人々の保護や野生動物や水資源の保全も改善される ということになる。とりわけ、6つの種子の処理になお使われているリンデンの販売をやめる提案がなされたことを強調する。

 EPA Press release:U.S. Pesticide Safety Highest in the World,06.8.1

  ニューヨーク・タイムズ紙によると、野鳥保護団体は、特に鳥に致死的影響を与えるコーン・コメ・タバコ・その他の作物に一般的に使われているカルボフランの大部分の利用を取り消す勧告を賞賛している。これにより、鷲、鷹、その他の大量の渡り鳥が救われることになるという。

 しかし、 殺虫剤行動ネットワークの科学者は、EPAは食品や水に含まれる多くの農業用殺虫剤の影響を研究したが、居住環境、特に子供が家庭で暴露される恐れのある農業環境での影響を無視したと批判している。EPAは、胎児や幼児、子供の脳の発達への影響を適切に測定しなかったと言う。これは、EPAの科学者組合が今週書面で公表した批判に呼応するもので、科学者はこの書面で、化学企業がその製品の利用を維持するようにEPAに圧力をかけたことも明らかにしたという。

 E.P.A. Recommends Limits on Thousands of Uses of Pesticides,The New York Times,8.4
 http://www.nytimes.com/2006/08/04/washington/04pest.html?_r=1&oref=slogin

 これをもって「米国の殺虫剤の安全性は世界で最高」と言えるのだろうか。既にヨーロッパ、アジア、中南米の多くの国が禁止している(注)リンデンの使用を今頃になってやめる(しかも自主的に)というのでは、この言い分にも疑問符がつく。しかも、リンデンの農業用利用はやめるが、食品医薬局の規制下にあるシャンプーやローションへの利用はなお残るのだという。この利用はカリフォルニアでは2002年に禁止され、大部分の米国の医者も今は処方していない。リンデンを研究し、州の禁止を求める運動をしてきたロサンゼルス郡公衆衛生区のエンジニアは、農業利用の廃止は前進だが、連邦政府は子供の頭にかけるのを何故なお許すのかと困惑する。

 EPA Bans Lindane for Use as Pesticide,The Los Angeles Times,8.2
 
http://www.latimes.com/news/nationworld/nation/la-na-lindane2aug02,1,5604223.story

 リンデンは発癌性が疑われ、人間の神経組織や肝臓、免疫システムも損傷する極めて有害な化学物質であることが知られている。それは70年代に世界の大部分の国が禁止したDDTなどと同類の化学物質で、環境中で分解されず、食物連鎖を通じて人体にも蓄積される。今や海洋と大気を通して世界中に拡散、北極の人々や動物までを脅かしている。このような物質にしてこの対応であるとすれば、他の殺虫剤に対する措置もどのようなものか想像がつく。

 新たな許容量基準が動物実験だけでは不確実なことからくる「過剰規制」を回避するための「人体実験」を基に定められたものを含むとすれば(米国環境保護庁臨時長官、農薬人体実験停止の声明,05.4.11)、科学の粋を集めたと自慢するこの評価方法自体の問題も問われる。

 「米国の殺虫剤の安全性は世界で最高」というのは、「米国牛肉は世界一安全」いう米国農務省と同様な傲慢さを表すだけではないかと疑われる。

 注:禁止国は、ガンビア、南アフリカ、インドネシア、ニュージーランド、韓国、デンマーク、フィンランド、ハンガリー、オランダ、スロベニア、スウェーデン、トルコ、コロンビア、コスタリカ、ホンジュラス、セントルシア、クエート。その他、モロッコ、フィジー、スリランカ、オーストリア、キプロスは農業用利用を禁止するか、極めて限られた用途に限定する、木材への利用のみを認めるなどの「厳しい制限」を行っている。

 Lindane - Registration, import consent and bans
 http://www.pesticideinfo.org/Detail_ChemReg.jsp?Rec_Id=PC32949#ChemReg