農業情報研究所環境農薬・化学物質・有害物質ニュース:2014年6月29日

学校周辺などや航空機での農薬散布禁止 よろよろ進むフランスの農薬規制 日本より数段マシだが

  米国、日本に次ぐ世界第三の農薬消費国フランスが農薬規制をめぐり揺れている。ブドウ・トウモロコシ・果樹地帯や河川沿いの農民が、自分はマスクをつけて辺り構わず農薬を撒き散らす。国民の間には、ほとんど無規制な農薬散布に 対する不平、不満の声が高まるばかりだ。

 これを受け、フォール農相は、現在審議中の農業未来法案に学校、保育施設、老人ホームなどの周辺(半径200メートル以内)での農薬散布を禁止する条項を付け加えた。これは6月25日、国民議会(下院)経済委員会で採択され、7月7-9日での本会議での採択を待つ。

 ロイヤル環境相は生物多様性法の審議に際して国民議会持続可能発展委員会でその原則が採択された「健康的な大地、農薬の無いコミュニティー」事業を支える立法の加速を要求している。 その狙いは、今年1月23日に採択された「国土における植物衛生産品利用の規制を改善するための法律」が定める措置の実施の前倒しである。それは、①有害生物の破壊と繁殖防止のために必要な場合を除き、「公法人」(国、地方公共団体、公施設法人)が緑地空間、森林、またはアクセス可能で公衆に開かれた公・民のプロムナードの維持のために農薬を利用することまたは利用させることを禁止する(第1条 2020年1月1日から実施)、②有害生物の破壊と繁殖防止のために必要な場合を除き、非職業的使用のための農薬の販売、譲渡、利用、保持を禁止する(第2条 2022年1月1日から実施)というものだが、この第1条の実施時期を2016年5月1日に早めようというのである。

 ただ、法律がそのまま成立するかどうかは不確定だし、これら措置自体も農業者に配慮して及び腰だ。学校や病院など周辺の農薬禁止区域は、垣根が無い場合に限るなど、知事による最小化の可能性を残している。農相は、住宅地から200メートル以内での農薬散布禁止は論外と言う。フランスの農地の大部分がそういう場所にあるからだ。ただ、 フランスでは原則的に禁止されているが農相がスィートコーン、ポップコーン、バナナ、米、一定ののブドウについて例外的に認めた航空機からの農薬散布については、環境相は7月末までに全面禁止するとしている。

 しかし、主要農業者政治団体である全国農業経営者連盟(FNSEA)は、こういう規制はフランス農業の生産コストを押し上げ、ひいては食料安保も脅かすと、6月24日のコンコルド広場を埋め尽くす抗議行動を呼びかけた。学校周辺での禁止も許せないと息巻く。

 Pourquoi le gouvernement veut agir contre les pesticides,Le Monde,14.6.28

 Les agriculteurs manifestent à Rungis contre un excès de normes et de « contraintes »,Le Monde,14.6.24

 フランスはやっぱり世界第三の農薬消費国にとどまるだろう。ただし、政府がいかに弱腰であろうと、こういう議論が起きること自体、日本に比べればはるかに進んでいる。

 先日、混住化が進む岩手の水田地帯に住む知り合いの家を訪ねた。今日は近くの田んぼで農薬を撒いていないし、野焼きもしていないから窓が開けられると言っていた。ときに、何の事前の知らせもなく、農薬散布のヘリも飛ぶという。こんなことをしていたら、いずれ日本の稲作農業も都市民・消費者から見放されるだろう。敵視さえされるかもしれない。