農業情報研究所環境農薬・化学物質・有害物質ニュース:2014年7月16日

ネオニコチノイド系農薬のミツバチ帰巣能力への影響 天候と景観で大きく変わる フランスの新研究

  2年前、フランス国立農学研究所(INRA)の研究者が、ネオニコチネイド系殺虫剤の活性成分をなすチアメトキサムが低容量でもミツバチの方向感覚を奪い、帰巣できなくさせることを確認、チアメトキサムと蜂群崩壊症候群(CCD)の関連性を示したと伝えた(ネオニコチネイド系殺虫剤がミツバチを減少させる 二つの新研究が立証,12.4.6)。

 同じ研究者が、今度は同様な実験を異なる天候条件と景観の下で実施、ミツバチの農薬に対する感受性がこれらの環境条件によって大きく異なることを確かめた。農薬の影響は環境要因によって過小にか、過大に評価される可能性があるという。この研究は、7月10日、Nature Communications誌に発表されたが1)、ここでは同じく7月10日のINRAの報道発表2)によって新研究の概要を紹介しておく。

 この研究のおいては、致死量に至らない低容量のチアメトキサムに曝したか曝してないミツバチを、有利または不利な天候条件(空は晴れ・気温は28℃以上か、曇りで気温は15℃から20℃まで)の下、巣から1qの様々な構造を持つ景観(樹林地などが混じる複雑な田園風景と、それほど複雑でない集約的農業に当てられた平地)の中に放った。

 その結果、天候条件と景観の複雑さが農薬に対する感受性に大きく影響することが分かった。天候条件が不利な場合、農薬によって帰巣できなくなるリスクは3%から26%(4匹のうちの1匹)に上がった。複雑な風景で帰巣できない率は35%だったが、単純な開放的風景ではこの比率は18%に減った。

 ミツバチは、太陽の位置と、過去の採餌行動の間に記憶に刻まれた樹木・垣根・森林の境界などの目に見える目印に導かれて巣に戻る。天候条件が悪いときには太陽の位置よりも目に見える目印に頼ることになる。この研究は、農薬に曝されるとこれが難しくなることを示している。低容量の農薬への暴露は空間の記憶を呼び起こす能力を変えてしまうようだ。樹木や垣根の稠密なネットワークは、目印を認識する能力が衰えたミツバチにとっては正真正銘の迷路になってしまう。天候条件が悪いと帰巣できない率が増えるのは、低い気温の下で飛ぶときに起きる生理・エネルギーに関わる拘束も関係しているかもしれない。

 このことからして、科学者は今や、環境と毒性の相互作用を探求する必要があるという。科学者は数年前、既に様々な農薬の相互作用の影響(カクテル効果)、あるいは農薬と病原体の間の相互作用の影響―ウィルスや寄生虫で既に弱ったミツバチにおいて増幅される農薬の影響の証拠を示している。この研究は、農薬と環境との相互作用という別のタイプの相互作用を明らかにしたという。

 1)Mickaël Henry et al,Pesticide risk assessment in free-ranging bees is weather and landscape dependent,Nature Communications,10 July 2014
  http://www.nature.com/ncomms/2014/140710/ncomms5359/full/ncomms5359.html

 2)Taking account of the environment of bees to better evaluate insecticide-related risks,INRA,14.7.10
     http://presse.inra.fr/en/Resources/Press-releases/Taking-account-of-the-environment-of-bees-to-better-evaluate-insecticide-related-risks

 平成25年度から始めた農水省調査によると、ミツバチ大量死の被害事例はあるものの、平成25年度中には「蜂群崩壊症候群の懸念を生じさせる事例は確認されなかった」そうである(http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/nouyaku/pdf/140620-01.pdf)。フランスをはるかに上回る複雑な地形・景観を持つ日本で、これはどういうことだろうか。ともあれ、全国に隈なく張り巡らされた疫学的監視網の確立が必要だ。「ミツバチの運命は人類の運命でもある」(Our Bees, Ourselves,The New York Times,14.7.15)。