農業情報研究所

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煙霧が降水パターンを変え、農業に損害を与え、早死を促進するーUNEPの研究

農業情報研究所(WAPIC)

02.8.14

 8月26日から開かれる持続可能な発展に関する世界サミット(WSSD)を前に、12日、国連環境計画(UNEP)は、南アジア上空に広がる広大な煙霧の層が食糧安全保障と人々の健康の大きな脅威となってきたという新たな研究報告(Impact StudyThe Asian Brown Cloud: Climate and other Environmental Impacts)を発表した。今、地球とそれを取り巻く大気は、徹底的に痛めつけられた復讐をするかのごとく、牙を剥いて人類に襲いかかっているように見える。多くの地域が破滅的な干ばつに襲われる一方、破壊的暴風雨と洪水が、連日、多くの人々の命を奪っている。それほど目立たないために騒がれることのない熱波による死はもっと多いだろう。研究は、このような破滅的災厄に拍車をかける新たな一つの要因を発見したようである。

 特に注目されるのは、従来、気候変動を引き起こす大気汚染の原因として化石燃料燃焼に関心が集まっていたが、この研究は木材・牛糞・その他の「バイオ燃料」の燃焼の増加も温暖化・異常気象の促進に大きく関係している可能性を示唆している点である。温暖化防止は、別の、新たな取り組みも要請されているようである。以下、この研究報告の公表に際してUNEPが発表したニュース・リリース(UNEP News Release 2002/56Regional And Global Impacts Of Vast Pollution Cloud Detailed In New Scientific Study)を要約・紹介する。
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 南アジア全体に広がる広大な汚染の覆いが農業に損害を与え、多数の人々を危険な状態に陥れている。UNEPと共に作業する科学者による発見は、この地域で過去10年に見られた目覚しい経済成長は、「アジアの褐色煙霧」の結果として、間もなく衰えに向かうであろうことを示唆している。

 この3kmの厚さの汚染の覆いが地域と世界の気候に関して持ち得る正確な役割を解明するためには、決定的なフォローアップの研究が必要である。しかし、予備的研究結果は、灰・酸・エアゾール・その他粒子の一団であるこの煙霧の増加が、降水と風のパターンを含む天候システムを混乱させ、アジア大陸西部の干ばつの引き金になりつつあることを示している。懸念されるのは、アジア地域の人口は今後30年の間に50億人に増えると見積もられることから、地域と地球に対する煙霧の影響がますます強まることである。

 UNEP常務理事のKlaus Toepferは、報告が発表されたロンドンでの記者会見で、この現象の科学的複雑性の理解を深めるとともに、煙霧を減らすための措置を求める行動が必要だと語った。彼が語るところによれば、

 煙霧は、森林火災、農業廃棄物焼却、自動車・工業・発電所における化石燃料燃焼の劇的増加、木材・牛糞・その他の「バイオ燃料」を燃やす数百万の非効率的調理者からの排出の結果であり、一層の研究が必要であるとしても、これらの最初の発見は、煤煙、粒子、エアゾール、その他の汚染因子の混合物の増大がアジアにとっての大きな環境ハザードになりつつあることを明確に示している。特に、3kmの厚さに伸びたこの汚染物質の一団は一週間で地球を半周回るから、世界全体にも影響がある。アジアに出現している巨大な汚染問題は、8月26日にヨハネスブルグで開かれる持続可能な発展に関する世界サミットが緊急に取り組まねばならない脅威と挑戦の縮図である。地球の長期的な健康と自然の富を犠牲にすることなく、いかにして経済成長を実現するのか。この問題に緊急に取り組まねばならない。最初の知見と利用可能な技術的・財政的手段を得た我々は、今や、アジアのため、世界のためにこの課題を達成しようとする政治的・道徳的な意志を発見せねばならない。

 アジア褐色雲に関する発見は、「インド洋実験(INDOEX)」で作業する200人の科学者により集められた観測結果から得られたものである。研究者は、煙霧が地域の気候・降水・人間の健康・農業に及ぼす影響を広く調査してきた。また、煙霧とその地球温暖化への影響との関係も解明しようとしている。

 主要な発見は次の通りである。

 煙霧は、地域の気候と天候のパターンに重大な影響を及ぼしているように見える。汚染の覆いは、地表に届く太陽光または太陽エネルギーの量を10%から15%減らしている。

 その熱吸収特性は大気下層部を相当に温暖化させていると推定される。

 地表冷却と低層大気加熱のこのコンビネーションは、冬季モンスーンを変形させ、アジア北西部全体での降水の急減とアジア東岸沿いの降水増加をもたらしているように見える。しかし、予測される変化の地域的詳細は、一層包括的な地域モデルと地域的なエアゾール・気候観測により検証される必要がある。

 報告で使用された世界モデルは、煙霧が北西インド、パキスタン、アフガニスタン、中国西部及び隣接した中央アジア地域での降水を20%から40%減少させることを示唆している。

 報告は、「パキスタンとインド北西部では1999年、2000年と連続した干ばつがあったのに対し、バングラデシュ、ネパール、インド北東部では洪水が増加した」という最近の状況に注意すべきだと言う。バングラデシュでは7年から10年の間隔で激しい洪水を経験し、最近の洪水は1988年と1998年に起きた。1998年の洪水では、陸地面積の3分の2が水没、160万haの農地が損害を受けた。

 煙霧中のエアゾールと粒子は別の仕方でも降水に影響を与える。雨滴は小さくなり、降水の頻度が減って雲が長く残るケースが増えた。あり得る一つの結果は、降水が居住地域から遠ざかることである。

 海洋に達する太陽エネルギーのレベルの10%の低下は、夏季の降水をコントロールする湿気の蒸発を減少させる。

 太陽光の減少は農業に重大な影響を及ぼす。インドで行なわれた研究は、煙霧がコメの収量を10%減らす可能性を示している。煙霧中の酸は、酸性雨をもたらすことで作物と樹木に損害を与える可能性がある。葉面への降灰は太陽光減少の影響を一層重大化する可能性がある。

 煙霧を形成している汚染は、呼吸器病の結果として、「数十万から数百万(sevral handreds of thousands)」の早死につながる可能性がある。死亡率のレベルは汚染レベルとともに上昇する。インドの7都市の結果だけでも、1990年代初期の2万4千の死が大気汚染に起因している。1990年代半ばまでには、それは年3万7千の早死につながったと推定される。

 この研究は南アジアへの影響に焦点を当てているが、それほど厳しくはなくても、東南アジアや中国を含む東アジアでも同種の煙霧問題がある。科学者はアジア全体の脅威に取り組む行動計画を要請している。アジア褐色雲プロジェクトは煙霧研究と農業・健康・水収支への影響の研究のための観測所の設置を目指している。そのようなプロジェクトは、地域における煙霧汚染を地球温暖化と関連づける複雑な科学に一層の光を当てるだけでなく、汚染を減らし、地域における目覚しい経済成長率の持続可能性を確保する政策的戦略の形成を助けるものと期待される。
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 関連報道
 'Brown haze' is blanketing Asia and changing weather, warn scientists,Independent,8.12
 You thought it was wet? Wait until the Asian brown cloud hits town,Guardian Unlimited,8.12
 Pollution Linked to Deaths in India,The New York Times,8.12
 Huge pollution cloud threatens south Asia,FT com,8.11

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