米英:温暖化防止への対照的アプローチ

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農業情報研究所(WAPIC)

02.2.21

 2月14日、大西洋の両岸でエネルギー政策への対照的なアプローチが発表された。一つは、昨年、京都議定書からの一方的離脱を宣言した米国・ブッシュ大統領が代替案として明かにした温暖化ガス排出量削減に向けての「ニュー・アプローチ」(White House Press Release: President Bush Announces Clear Skies and Global Climate Change Initiatives)であり、他方はイギリスのPIU(Performance and Innovation Unit)が発表した「エネルギー・レビュー」である。これは、ブレア首相が昨年委託した2050年までのエネルギー政策のビジョンと戦略、それを実現するための実際上の措置に関する研究のレポートである。

 「ニュー・アプローチ」については、わが国でも大々的に報道されたから、詳説の要はないであろう。要するに、温暖化ガス放出量を減らすために、痛みを伴うことなく放漫なエネルギー利用を多少改めようとするものであり、誰も削減を義務づけられない。税制により家庭のソーラー・パネル設置を刺激したり、企業の二酸化炭素排出削減の奨励措置を講じることで、国内総生産(GDP)が100万ドル増加するごとの温暖化ガス排出量を今後10年間で18%削減するという。しかし、外国はもとより、米国内でも、実際には排出量は減るどころか、増加するだろうと批判が渦巻いている。19日には、イギリスのベケット環境食料農村問題相も、米国のGDPごとの排出量の18%削減は、1990年代後半の米国の実績を越えるものではなく、その目標の達成は容易であり、米国の2010年の排出量は1990年より25%も増える(京都で設定された削減目標はマイナス7%)だろうと批判している(US climate change plan does not alter UK's commitment to Kyoto - Beckett (20日にはEUも同様の見解を発表、さらに企業の排出レベルの義務的な監視と報告が必要だとしている(European Commission Press lelease:Reaction by the European Union to the Speech by President Bush on Climate Change of 14 February 2002

 そのイギリスの「エネルギー・レビュー」はエネルギー政策全般にかかわるものであり、温暖化対策を直接の対象とするものではない。しかし、その狙いはエネルギー供給の安全保障と温暖化ガス排出量削減という二つの目標を同時に達成しようとするところにあり、温暖化対策と深くかかわる。それは、京都議定書により設定された1990年比12.5%という温暖化ガス排出削減目標の達成を意識して書かれている。グリー・ピース等環境保護団体が批判する原発の選択肢は排除されていないが、更新可能なエネルギーや省エネが一層大きな役割を果たすべきだと認めている。報告の要点は次のとおりである。

 ●エネルギー安全保障に関しては、差し迫っての危機はないが、この問題は不断に見直す必要がある。この問題は、将来、例えばEU域内でのエネルギー市場の一層の自由化や新旧のエネルギー生産地域の安定を支援するための外交努力に関係して、グローバルな文脈で考える必要がある。

 ●EUのエネルギー市場自由化は安全保障のために重要である。

 ●政府はエネルギー事業への投資への長期的なインセンティブに注意を払い続けねばならない。

 ●イギリスは、今世紀を通じて炭素排出の大きな削減をしなければならないであろうが、他の国が同じ行動を取るのでなければ、競争力を傷つけるそのような行動や大きなコストを背負い込むことは無分別である。

 ●選択肢を広げるために、エネルギー技術の革新のための支援が必要になる。イギリスの政策はコストが小さく、炭素排出が少ない新エネルギー源を確保することに焦点を当てるべきである。

 ●当面はエネルギー効率の改善と更新可能なエネルギーを優先すべきであるが、石炭や原発の選択肢も残しておく必要がある。

 ●エネルギーと車の効率に関する新たな目標が必要である。政府は、家計部門における効率改善目標を、2010年までに20%、次の10年にさらに20%と設定すべきである。

 ●更新可能なエネルギー源から生産される電力の比率は、2020年までに20%に増やすべきである(現在は2.5%ー農業情報研究所)。

 ●更新可能なエネルギーや熱と電気のコージェネレーションへの投資の制度的障壁を緊急に取り払う必要がある。

 ●政府は、エネルギー政策のすべての側面にかかわる横断的な新たな「持続可能なエネルギー政策ユニット」を設置すべきである。

  このようなレポートに、ブレア首相やエネルギー担当大臣、環境担当大臣は、直ちに歓迎の意を表明した(PRIME MINISTER WELCOMES ENERGY REVIEW,02.2.14)。グリーン・ピースは更新可能なエネルギーを犠牲に、原発を支持するものと非難している(Number 10's energy report is compromised by government infatuation with nuclear power,02.2.14)。 

 関連した海外主要論調
 President's initiative will work against environment,AtlantaJournal-Constitution,2.19
 Japan cool to Bush's global warming plan,Chicago Tribune,2.19
 Weak on Warming,The Washington Post,2.19
 A Climate Proposal That Could Change Things,Neue Zürcher Zeitung (Switzerland),2.18
 Beyond Kyoto Lite,American Prospect,2.18
 Carbon starvation diet,Washington Times,2.18
 Air Illusion: Bush's Clear Sky plan puts business before health,Detroit Free Press,2.18
 Hot Air,The Washington Post,2.17
 Bush's Method Spells Doom,Nation(Nairobi),2.16
 Le Kyoto «light» de Bush fraîchement accueilli,Liberation,2.16
 Bush Climate Plan Gets Cold Shoulder: Alternative to Kyoto Protocol Bashed on Eve of Asia Tour,The Washington Post,2.16
 Backward on Global Warming,The New York Times,2.16
 Going for Kyoto,Guardian,2.15
 Clear skies for US, gloom for Kyoto,Guardian,2.15
 Britain's energy policy is a welcome contrast to Mr Bush's dismal effort,Independent,2.15
 Analysis: Bush and Britain worlds apart on climate control ,Independent,2.15

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