農業情報研究所

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米国:州レベルで進む温暖化ガス削減への取り組み

農業情報研究所(WAPIC)

02.11.15

 温暖化ガス排出削減努力に対する米国・ブッシュ政府の消極的態度は相変わらずである。カリフォルニアにおける電気自動車と低汚染自動車の販売増加に向けての動きに法的挑戦をする自動車メーカーを援護する最近の態度をみれば(ブッシュ、州の排出ルールを攻撃、自動車メーカーの訴訟を援護)、「消極的」というよりも、「敵対的」と言うほうが正しいかもしれない。今月初めの中間選挙における共和党の圧勝は、ブッシュ政府のこのような立場を一層強めることになろう。12日には気候変動に関する4年間にわたる研究計画が発表された。1950年以来の温暖化が、どの程度まで二酸化化炭素排出のような人間活動により引き起こされたのかなどを確かめるのだという。しかし、1950年以来観測される温暖化の少なくとも半分は人間活動によるということは、既に気候変動国際パネルや米国国内の研究が結論していることだ。その改めての、しかも長い時間をかけての研究は、排出削減努力を回避するために、その推進力となった既存の研究のアラ探しをするものでしかなく、排出削減への冷たい態度の変更の徴候とはとても思えない。

 とはいえ、温暖化がもたらす経済や人々の生活・健康への直接的脅威に配慮せざるを得ない多くの州の指導者には、護衛付きのジョギングに興じながら、のんびりと研究結果を待つほどの余裕はなさそうだ。沿岸州は海面上昇の可能性を恐れている。ますます激しくなる旱魃や洪水に見舞われている農業州は、この現象が温暖化と関連しているのではないかと恐れている。ブッシュ大統領が無視した今年6月の環境保護庁(EPA)のレポートも、最近の地球温暖化の大部分が人間の行動から生じたものであることを認め、米国は、来るべき数十年の間に雪が養う水源の崩壊、一層厳しい熱波、ロッキー山脈の草地や海岸湿地の永久的消失などの影響を受けると記している(米国:気候は変わる、米国レポート)。こうしたなか、連邦レベルの動きにかかわりなく、温暖化ガス排出削減に向けての州レベルでの様々な取り組みが拡大しているようである。11月14日に発表された独立非政府機関(NGO)・Pew Center on Global Climate Change のレポート(Greenhouse & Statehouse: The Evolving State Government Role in Climate Change)が、この様相を明確に示している。

 このレポートは、気候変動を和らげようと行動する9州ージョージア、マサチュセッツ、ミネソタ、ネブラスカ、ニュー・ジャージー、ノース・カロライナ、オレゴン、テキサス、ウィスコンシンーのケース・スタディの結果を報告するものである。報告によれば、気候変動に関する州レベルの行動は1990年代末から強化されつつあり、更新可能なエネルギーの促進、大気汚染抑制、エネルギー開発、農業・森林・輸送・廃棄物処理などの部門での対策など、多様なアプローチが取られている。多くの州のプログラムは、とりわけ、ブッシュ大統領の昨年の京都議定書拒否以来、拡充に向かっているという。これらの取り組みについて、具体的には、この報告や14の州の新たな試みに関する別のケース・スタディ(State and Local Net Greenhouse Gas Emissions Reduction Programs)を参照されたい。

 世界の温暖化ガスの40%近くを排出する米国の京都議定書拒否で、国際社会は排出削減(温暖化防止)の実効性を悲観、温暖化への適応、災害対処に重点を移しつつあるようだ(気候討議、焦点は排出削減から適応に転換)。しかし、米国における州レベルでのこのような動きを見れば、それほど悲観的になる必要はないのかもしれない。ただ、報告は、州レベルの行動は排出の実質的削減に寄与しつつあるものの、強制措置を伴なう包括的な国家政策に代替するものとみなすべきではないと言う。報告は、これらの行動のために利用できる州の資金は微小であるし、国際関係における憲法上の制約に直面していると指摘する。さらに、いくつかの州はほとんど無関心で、逆にこのような動きに歯どめをかける公式手段をとる州さえあるという。カリフォルニアの自動車に関する新規制に関するFinancial Times紙への一投稿(California sets the pace on emissions,02.11.13,p.14)も、ゼロ・エミッション車の広範な採用を促進し、従来のエンジンと競争できるように技術的コストを引き下げるほどにそのような車への需要のレベルを引き上げるためには、州と連邦の産業に対する強制と消費者に対するインセンティブの結合が必要と論じている。

 しかし、多数の州が排出削減に取り組んでいるということは、中央政府の政治的意志次第で、削減が一気に進む可能性も示唆している。この意味では、中央政府が京都議定書批准の意志を明確にしながら、州政府の強硬な反対で立往生しているカナダなどよりは、希望がもてるのかもしれない。カナダの最近の世論調査によれば、回答者の45%が中央政府は京都議定書から撤退すべきと考えているという(Support for Kyoto plunges,The Globe and Mail,11.2)。

 関連ニュース
 On Global Warming,States Act Locally,The Washington Post,11.11
 U.S.: States Lead Fight Against Global Warming,OneWorld.net,11.15