農業情報研究所

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猛暑死者の数をめぐって争う愚

農業情報研究所(WAPIC)

03.8.25

 前代未聞の猛暑が続くなか、フランス、ポルトガルなどで炎熱地獄のなかで死に追いやられる人々が急増している。実は、猛暑による死者の数が正確に何人か数えるのは簡単なことではないし、大した問題でもない。問題は、この猛暑が米国の9.11テロの犠牲者をはるか上回る多くの人の命を奪っているのは間違いなく、これが地球温暖化に関連しているとすれば、いまや人類は「地球温暖化」というとてつもない「大量殺戮兵器」に直面しているということである。犠牲者の数や救済措置をめぐって争っている場合ではないのだ。

 それにもかかわらず、フランス政府への風当たりが日増しに強まっている。このことあるのが予想されるにもかかわらず、政府が医療体制の整備を怠ったために、多くの人命を救えなかったというのである。実際、この騒ぎをよそに首相がバカンスに出ていたということでは、政府も弁明の余地はない。身元不明で引き取り手もない死体が積もっているという悲惨な状況まで現われ、ますます政府批判が強まるであろう。

 葬儀社団体は猛暑による死者を1万400人と推定した。すると内務省がこの数字には疑問がある、1万人以下だと反論した。政府は干ばつ被害を受けた農民への5億ユーロの援助計画を発表したばかりだが、この援助の配分をめぐって農民間の対立が強まっている。主流派農民組合・農業経営者連盟(FNSEA)と青年農業者センター(CJ)を支持する農民が独占しようとし、農民同盟その他非主流組合を支持する農民は排除される恐れが強まっているからだ。他方、農民援助はすぐに決めたのに、1万もの死者に関する救済措置は何故10月まで待たねばならないのかという批判も噴出している。なんとも悲しむべき事態だ。これでは、稀代の「大量殺戮兵器」との戦いなど及びもつかない。

 なお、温暖化を「大量殺戮兵器」と呼んだのは、最近の「ガーディアン」紙の記事である。それは、今年5月だけで、インドでは猛暑による死者が1400人、米国におけるトルネードによる死者が500人に達したことを引き合いに出している。これらが温暖化との関連で説明できれば、温暖化は、確かに核兵器にもまさる「大量殺戮兵器」である。温暖化は徐々にやってくるのではなく、あるとき一気に爆発、破滅的影響をもたらすかもしれないという研究がある。今がその時である可能性も排除できない。だとすると、貿易自由化や遺伝子組み換え技術をめぐって角突き合わせるのも小事としか見えなくなる。