猛暑と干ばつで記録的森林火災、一層の予防・防火対策を―国連欧州経済委

農業情報研究所(WAPIC)

03.9.8

 ここ数年の温暖化と干ばつの傾向は、世界各地に甚大な森林火災被害をもたらしているが、今年の夏の長期にわたる猛暑と干ばつによる被害は前例のないものになりそうだ。2003年の火災シーズンは終わったわけではないが、9月5日、国連欧州経済委員会(ECE)が、欧州・北米・ロシアにおける今年の森林火災面積の暫定数値を発表した(NOTE FOR THE PRESS:Forest fires: a complex issue necessitating international cooperation)。既に現時点で、カナダを除く各国で昨年の消失面積を大きく上回っており、ポルトガル・スペイン・イタリアでは1980-2002年の20年以上の平均に比べて5倍近くの森林が燃えている(下表参照)。

 森林火災面積(ha)

 ヨーロッパ

  2003年1月-8月 2002年1-12月 1980-02年平均
ポルトガル

417,000

123,910

93,981

フランス

54,000

20,850

29,711

スペイン

99,863

86,426

191,400

イタリア

58,902

40,768

121,982

北米・ロシア

  2003年1月-8月 2002年1-12月
カナダ

1,510,364

2,657,040

米国

2,888,738

1,706,514

ロシア

23,710,000

11,700,000

 ロシアでは、南部・東部が大規模火災に見舞われ、甚大な損害を引き起こしている。8月末時点で、既に昨年の2倍の面積が燃えた。カザフスタンでも8万haが焼けたという。半乾燥地域のフランス南部やコルシカ島は森林火災常習地帯で、毎年多くの潅木林が焼けているが、ここでも既に、昨年の倍以上が焼けている。もともと国土が狭いポルトガルの例年の4倍に及ぶ面積の火災は、国レベルでの生活条件と国民経済にも甚大な影響を与えている。EUは、昨年中欧を襲った大洪水の後に設けられ、損害が30億ユーロ以上またはGDPの0.3%以上になる大災害に際して支出される「連帯基金」による援助をいち早く決めた。

 一旦発火すれば火勢は猛烈なものとなり、人命を賭した消化活動も火災の広がりを防げないケースも多い。犠牲者の数、財産の損失も記録的なものとなる。土壌侵食など、生態系の影響も大きい。半乾燥地域など、場所によっては植生の回復に手間取るか、砂漠化が進む恐れもある。それは、関係地域住民だけでなく、地域・国全体の生活に大きな影響を及ぼす可能性がある。

 温暖化とそれに伴なう様々な自然災害の頻度の増大と激甚化は、以前の災害対策の根本的見直しを要請し、人々の生活の深甚な変化を予想させているが、森林火災もその重要な要素となってきた。ECEは、火災の原因とそれが社会と生態系に引き起こす損害は極めて多様であり、予防・防火戦略は、公衆の啓発、放火などの犯罪の抑制、火の通路を減らす林業措置、適切な管理と有効な防火のための経済的奨励措置などに取り組んでいるが、それでも猛暑と乾燥の天候条件は火災をますます厳しいものにしていると言う。危険区域内の居住地の存在が消化活動を妨げ、財産の損害を増加させている。これらすべての場合において、事態の長期的改善のためには、長期にわたる政治的意志が必要だと強調している。

 

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